巻頭言
いのちの旅路
金 杉 恵 子

 私の勤めていた小学校は、親鸞聖人の体せられた仏教精神を建学の理念として、「いのち」に対する尊厳の心をもつ心豊かな人間の育成を目指して日々の教育活動が行われている。在職中多くの子どもたちと生きとし生けるものの「いのち」の大切さについて考え話し合った。その懐かしい思い出が今でも走馬灯のように心に蘇ってくる。

 現役を退いた今、私は絵本の読み語りに取り組んでいる。今まで多くの本を読み語りさせていただいたが、「いのち」について深く考えさせられた本が何冊かある。その中の特に心に残った一冊を紹 介したい。

 その本の題名は、ローレンス・ブルギニョン作 柳田邦男訳『だいじょうぶだよ、ゾウさん』(文渓堂)。幼いネズミと年老いたゾウの友情物語である。幼い時のネズミはゾウとの別れを怖がっていたが、成長するにつれて命の終わりを自然なことだと考えるようになり、心を込めて終末期を迎えたゾウのケアをする。そして大好きな親友が「いのちの旅路」を終え「ゾウの国(お浄土)」に旅立っていくのを「怖くなんかないよ。大丈夫。」と言って見送る。ゾウは、世話をしてくれたネズミにウインクをして、「怖くなんかないよ。大丈夫。ありがとう。」と言って「いのちの旅路」を終えるというお話である。

 私の「いのちの旅路」はといえば、それはまだ続いている。この絵本を読み語りしながら最近よく思う。自分は今まで周りの人たちに心を向けて寄り添うことができただろうか?胸をはれるような人生を歩んできただろうか?そして、やがてやって来るその終わりをゾウみたいに穏かに静かに迎えることができるだろうか?と。そんな時いつも思い出すのは、親鸞聖人が晩年に記されたお手紙である。 「この世の中まことに無常である。痛ましいことが次から次へとおきている。人間いつどうなるか分からない。しかし、この身如来様のおはからいのまま生かせていただき、いつの日か往生させていただくのみである。」

 親鸞聖人のお言葉通り、私の「いのちの旅路」に光を照らして下さり、いつでもどこでも見まもって下さる阿弥陀様がいらっしゃることが本当にありがたい。何も心配しなくていいのだと安堵し、今日も私は阿弥陀様の前に座り、感謝の気持ちを込めて合掌させていただいている。
(前京都女子大附属小学校教諭)