手段とつけるべき力と目標と
杉 澤 周 一

 有り難く、授業を参観させていただく毎日である。すると、同じ単元の授業を同時期に2、3回観ることがある。3年物語「ゆうすげ村の小さな旅館」(茂市久美子:著・東京書籍)の授業もその一つ。そして、考えたことがある。「しかけ」を見つけることが主目標? 学習活動も評価もそれが主? 旅館を一人で切り盛りするつぼみさんを近所の美月という女の子が手伝い助ける。ウサギダイコンなどの材料で作った料理はお客さんに大評判。やがて女の子の正体はウサギあることがわかる。それまでに、それを仄めかす言葉や文が幾つか出ている。「色白のぽっちゃりしたむすめ 宇佐見美月ウサギダイコン 耳がよい」。
 教科書と指導書は、それを作者の「しかけ」とし、単元目標を「出来事を読み取り、物語のしかけを見つけることができる」としている。場面読み数時間の目標は「場面で起きた出来事を読み取り、人物の様子や気持ちを想像しながら読む」。学習指導要領の該当の重点指導事項は「場面の移り変わりに注意しながら、登場人物の性格や気持ちの変化、情景について、叙述を基に想像して読むこと」「目的や必要に応じて、文章の要点や細かい点に注意しながら読み、文章などを引用したり要約したりすること」と示している。
 そして、つけたい力の項には説明図で、「場面と場面とを関連づけて読む。文章中の語や表現に着目して読む」とあり、記述には「物語の『しかけ』を探すことで場面と場面を関連づけて読み、人物像や人物の気持ちの変化を想像しながら読む力をつけることをねらいとした。」とある。つけるべき力はどのようなもので、どのようにつけるのか?

 目標と学習活動、評価・ふり返り2例、AとBを並べ考えてみた。
[目標:課題提示 学習活動]
A 美月がウサギであることがわかるしかけの言葉や文を見つけましょう。線を引き、みんなで確かめ合いましょう。
B 美月がウサギであることがわかるしかけの言葉や文を見つけまましょう。線を引き、理由を考えて書き、それらを出し合いましょう。それらを参考にして、場面と場面のつながりや人物の様子を思い浮かべながら、この場面を読み味わいましょう。
[評価 ・子どものふり返り]
A たくさん見つけましたね。
 ・たくさん「しかけ」をみつけられて良かったです。
B 理由を出し合い、美月とウサギが重なり想像がふくらみましたね。見つけたしかけの場面で、ウサギを思い浮かべながら読めましたか。場面と場面がつながるところがありましたね。それらを想像しながら、この場面を読み味わえましたか。
 ・「しかけ」について、理由や 場面のつながりを話し合い、それらを思い浮かべながら読むと 最初より楽しく読めました。

 Bは、「しかけ」を見つけるのは読み取る力の一つではあるが、豊かに想像しながら読む目的のための手段と捉えた実践である。すると、主目標は場面の様子やつながりについて学び合い、それにより豊かに想像しながら読み味わうこととなり、学習活動も評価もそれを外せない。指導計画の展開も子どもに向ける言葉も、それに応じたものになる。見つけられて良かったと終わるのではなく、学びをふり返りながら想像豊かに読んで終わるのが必然となる。
 終末に全文を読む際、「しかけ」の言葉や文の確認が主な活動ではないだろう。初発の読みとは変わったことを自覚しながら想像豊かに読み味わう子どもの姿を見たい。
 この学びの変容を今後の学習や日常の読書活動につなげ、力として定着させる意図をもちたい。

 手段の後に目的がある。したがって手段は主目標にはならない。学習指導要領と教材を子どもに照らし、それに応じて指導書等関連資料を読み解き、本来子どもにつけるべき力を焦点化し、それが得られる目標と計画、実践、評価を構想したい。終末に子ども個々が、今後の自立につながるように読んでいる姿を思い描きながら。
(東近江市教育委員会学校教育課)