「まんが日本昔話」の秘密
好 光 幹 雄

 昔、「まんが日本昔話 」というアニメがありました。子どもから老人まで大人気になり、その後も何度も何度も再放送されました。
 さて、このアニメがヒットした理由が何なのか私はずっと考えていました。暇人ですかね?
 ほのぼのするお話、愉快なお話、怖いお話、不思議なお話、どれも素敵なお話ばかりでした。
 しかし、それはベースにあっても、それがヒットの原因ではないと思っていました。それでは、アニメのコンテでしょうか?しかし、民話風の穏やかなコンテでもなさそうです。なぜなら、毎回、お話毎に、絵を描いている人は違い、タッチも違ったからです。
 そして、長年、教師になって30年近く経って、やっとわかったのです。それは、脚本と声優のプロとしての技にあるのだと。

 さて、その脚本と声優のプロの技とは何でしょうか? 次の2つの表現に何を感じますか?どんな違いがありますか?
  A 「今日は晴れです。」  B 「今日も晴れです。」
 わずか1字の「は」と「も」の違いで受ける印象が違います。
 A「今日は晴れです。」
 これは事実を述べています。いえ、事実しか述べていません。ちょうど、実験や観測をする科学者的な表現なんです。
 しかし、B「今日も晴れです。」
 これは、晴れだと言う事実に加えて、今日もまた晴れが続いた、という事実にプラスαが付け加わります。それは、時として、表現する人の思いや感情を示します。
 今日も晴れて嬉しい。今日も晴れてまた畑仕事ができる。
 「も」という1字の中に、人の思いや感情などが凝縮して表現されているのです。

 このような表現を「モダリティ」と言います。

 「かさこじぞう」のお話の中で、爺様が雪に埋もれたお地蔵様にかさをかぶせる場面があります。
 爺様は、「おうおう、つめたかろうのう」と言います。
 「つめたかろう」だけでもいいのですが、「おうおう」や「のう」が付け加わることによって、爺様の地蔵様に対する気持ちが一段とよく分かります。
 そして、お話の中のこのような会話文を丁寧に心を込めて読むことで、登場人物の気持ちや思いが肌から伝わるように聞いている人にも伝わります。
 幼稚園でも小学校でも、読み聞かせが大切なのはそこなのです。モダリティを意識してお母さんが笑いながら、また涙をこらえながら読むこと、つまり、お母さんが感動した言葉をお母さんが感動したように読み聞かせることで、子どもは悲しいことを悲しいと感じるようになり、愉快なことを愉快だと感じるようになります。これが幼児教育の原点です。情操教育の原点です。お母さんに沢山読み聞かせをしてもらっている子どもの情緒が安定しているのはそのためなのです。

 日本昔話の中には、このモダリティの表現が優れた表現で適切に出てきます。そして、それらのモダリティを実に上手く表現しているのがプロの声優たちなのです。本当に上手ですね。大人まで童心に返って引き込まれるのは、それなりの理由があったのです。
 と言うことで、日本昔話のヒットの理由は、お話でも、絵だけでもありません。モダリティを適切に利用した脚本とそれを見事に演じた声優のなせるプロの技だったのです!と、私は思っています。
(さざなみ国語教室同人)