あの人に伝えたい 忘れられない言葉
勝 矢 真 一 郎

 光村図書6年、書く領域「忘れられない言葉」。この単元では、自分の見たこと、聞いたこと、体験したことを通して、感じたことを自由に書く「随筆」を言語活動として取り上げている。本実践では、卒業を目前に控えた子どもたちであるという実態を踏まえ、「あの人に伝えたい」というタイトルを追加することにした。「あの人」がつくことによって、相手意識が発生し、子どもたちの「選択する言葉」や「書き方」に、相手に応じた思考がもたらされると考えたからである。随筆は「思ったことを自由に書く」といった性質をもっているが、この自由さにこそ、「何を書いていいのかわからない」「目的が不透明で、書き出せない」といった、躓きのポイントがあるのも事実である。「あの人に」と銘打つことで、「何のために書くのか」「誰を対象とするのか」ということが絞り込まれ、書くことの苦手な児童も、安心して書き進められるのではないかと考えた。

 また本単元では、小中連携事業として、中学校の国語科の先生に、1時間、出前授業に来ていただいている。その時に、随筆の重要ポイントとして、「伝えたいことを見つめ直し、何度も何度も深く考えることが大切である」というアドバイスをいただいた。このアドバイスを受けて、本単元では、書く活動と並行して「インタビュ―活動」を取り入れることにした。質問者と書き手に分かれ、質問者が書き手にどんどん質問をしていくことで、書き手が深く考える機会をもつという活動だ。「何でその言葉にしたの?」「その言葉で成長したのはわかるけど、これからはどうしていきたいの?」「お母さんに伝えたいのはなぜ?」などの質問に答えることで、「自分の本当に書きたかったこと、伝えたいこと」が引き出されていくのだ。インタビュー終了後は、「引き出されたこと・書きたくなってきたこと」を忘れずに記録させるようにした。話すこと・聞くことの活動は鮮度が重要であるので、書き留めるという補助的活動が効果的である。このように「随筆を書く」という活動に並行して「インタビュー」を位置づけることで、より書きたいこと、伝えたいことが引き出され、子どもたちが、何度も何度も伝えたいことを見つめなおし、深く考える姿が見られた。

 単元最終では、「いつ、どこで、どうやって、どんなタイミングで伝えるのか」の状況設定をすることで、自分たちの思いのこもった随筆に、よりスポットの当たる演出を考えさせた。子どもたちそれぞれの家庭事情や、相手との関係性を考慮した案がたくさん出てきた。国語科での取り組みが、思春期を迎えた子どもたちが、自分の成長を振り返るよい機会となり、家族や友人など大切な人との関わりを深める場となったことをうれしく思う。私にとっても「忘れられない学習」となったことは言うまでもない。
(甲賀市立伴谷東小)