巻頭言
「苦手」から「自信」に 〜恩師の作文指導から〜
穗 雅 貴

「今日から私がみなさんの五年生の担任です。早速ですが今日の宿題は作文です。」という言葉で始まった私の五年生。つづけて「一年間で作文を原稿用紙百五十枚書いてもらいます。」と話した。「え〜」というクラスの反応。百五十枚という数字は途方もない数字で作文が大の苦手だった私にとっては特につらい話でした。

 多くの嫌がる子どもたちに先生は、書きつづけさせる「仕掛け」を作っていました。毎日授業前に数人の作文を紹介する。その紹介した作文についてよかった点を話してくれる。それを学級通信に載せる。また、五十枚達成ごとに一人ずつ励ましの賞状を送る等。子どものやる気を引き出す仕掛けは「おもしろい作文でクラスを楽しませたい。だから書こう。」という気持ちにさせました。また、ファイルに原稿用紙がたまっていくのも作文を書く動機づけになりました。

 しかし、私は作文が苦手だったのでみんなの前で紹介されたり学級通信に載せてもらうことはありませんでした。私のように苦しんでいる仲間が数人いました。ある日、先生が「ちょっとおいで。」と別教室に呼びました。作文が書けない私たちは、怒られると思いながら教室に向かいました。すると、先生は「見たまま思うまま書いていいよ。下手とか考えずに二行、三行でもいいからまず書いて先生に見せて。」と私たちを安心させる言葉かけをしてくれました。

 その後、そのとおり提出をつづけると先生は、短い私たちの作文をみんなに紹介してくれるようになりました。みんなの前で紹介してもらいほめてもらったときは、とてもうれしかったです。その後も私たちに作文指導をつづけてくださり学級通信にも何度も載せてもらいました。  3学期、私は作文百五十枚書きあげることができました。作文百五十枚という数に大きな自信を持つことができました。

 現在、私は小学校校長として子どもたちを見つめています。苦手なものを自信あるものにしていく取り組み。「先生、●●ができるようになった。」という言葉が子どもたちからあふれ出る学校づくりをめざしています。今も残している百五十枚の作文を手元に置きながら日々、校長としてこの課題に向き合っています。
(大阪府茨木市立太田小学校校長)