全国文学館めぐり(11) 黒姫童話館―松谷みよ子の世界―
北 島 雅 晴

 標高672メートルの黒姫駅からは、妙高山と黒姫山の美しい姿が見られます。黒姫駅は、新潟県に接する長野県最北端の駅です。1888年柏原駅として開業し、黒姫高原観光の玄関口として、今でも多くの観光客が訪れます。(近隣に、ナウマン象の博物館、一茶記念館があります。)
 黒姫駅からバスで20分、黒姫高原に着きます。冬にはスキー客でにぎわいますが、百万本のコスモスが咲く9月初旬もお勧めです。黒姫童話館は、高原の一角に平成3年に建てられました。

 当館は、ミヒャエル・エンデの世界・松谷みよ子の世界・信濃の民話、3つの展示室から成ります。当館の裏手には、いわさきちひろ黒姫山荘が復元されています。いわさきちひろは1996年、黒姫にアトリエを兼ねた山荘を建ててそこで多くの作品を仕上げました。
 ここでは「松谷みよ子の世界」を中心に紹介します。

 松谷みよ子にとって信州は思い出の地です。太平洋戦争中信州に疎開したこと、野尻湖畔に疎開中の坪田譲治を訪ねたこと(その後みよ子の師となる)、ライフワークとなる民話の採訪を信濃から始めたこと、黒姫山麓に山荘を建てたことなどが信州とのつながりを生みました。
「黒姫は私にとって縁の深い地です。敗戦当時、野尻湖に疎開されていた作家坪田譲治との出会いがなかったら、今日の私はなかったと思うのです。」
 展示室の入り口にはこのようなメッセージがあります。

 展示室は、坪田譲治との出会い・民話との出会い・モモちゃんとアカネちゃんの本、3つのコーナーで構成されています。
 民話の採訪は、信州を皮切りに秋田・和歌山をはじめ全国に及びます。民話の魅力については、「現代民話考」「民話の世界」等に書かれています。
「モモちゃんとアカネちゃんシリーズ」は、1961年雑誌「母の友」に掲載されてから、じつに32年間続きます。このシリーズは、「松谷家の歴史」を表したものといえます。
 展示品からは、松谷みよ子の生き方が分かるとともに、民話のねうちを考えるきっかけを与えてくれます。

 松谷みよ子の業績は多方面にわたります。今まで紹介した、民話の再話・創作民話・モモちゃんとアカネちゃんシリーズの他にも、反戦や環境問題を取り上げた「直樹とゆう子シリーズ」もぜひ子どもたちに読んでほしい作品です。全5話、24年かけて書かれました。原爆・戦争・公害・飢饉といった負の遺産を題材にして、自分自身がそれらとどのように向き合っていくかを厳しく問うた作品です。

 その他にも、子どもたちに読んでほしい作品が多くありますので、ここでは題名のみ挙げておきます。 《太郎シリーズ》
「龍の子太郎」「まえがみ太郎」「ちびっこ太郎」
《創作民話》
「おおかみのまゆ毛」「茂吉のねこ」「おしになった娘」「トラと泳いだ兵隊」
《童話・詩》
「貝になった子ども」「朝鮮の子」「火星のりんご」「鯨学校」「洪水の話」「銀の矢くるみの木の矢」 「帰ってきたゆうれいたち」「先生ダイキライ」
 「いもうと」という詩は、読者から聞いた話を詩に表現したものです。妹がいじめにあって苦しみ続け、命を落としてしまうという詩です。子どもたちとこの詩を読んで、一緒に生命の尊さについて考えたいです。
(草津市立志津小)