全国文学館めぐり(10) 奈良県立万葉文化館
北 島 雅 晴
飛鳥の地には目立った建物があるわけではありません。「伝○○宮跡」「○○寺跡」といった1400年前の遺跡が残るだけです。倭国の中心地だった町に思いを馳せ、古代の人々の生き方を想像するところに飛鳥の魅力があるのかもしれません。 近鉄橿原神宮駅よりバスで20分。万葉文化館にかなり近づくまではその姿が見えません。景観に配慮した場所に建てられています。 万葉文化館は、企画展示室・日本画展示室(以上有料区画)、一般展示室・特別展示室・万葉図書情報室(以上無料区画)で構成されています。そのうちの無料区画について紹介します。 【一般展示室】 万葉時代の生活を等身大の人形と映像で紹介しています。歌に興じる若者、須恵器や土師器を並べた店、野山での歌垣等の様子がよく分かり、子どもから大人まで楽しむことができます。 【特別展示室】 飛鳥池工房遺跡の発掘成果を紹介するコーナーです。この遺跡は文化館建設中に偶然発見されたものです。平成3年の発掘の結果、この工房では、金・銀・鉄・うるし・ガラス等を使った製品が作られたことが分かりました。日本最古の銅銭富本銭も作られていました。7世紀後半から8世紀初めの遺跡ですが、当時の最先端の技術をもった工房として注目されています。 【万葉図書情報室】 「珍しい万葉の古書からデーターベースまで、万葉集に関する情報を提供します」と、文化館のパンフレットには書かれています。万葉集に関する資料の豊富さは、おそらくこの情報室が一番ではないかと思います。 文化館では、万葉集に関するいろいろな講座を開き、万葉集を広く知ってもらうことに力を入れています。 ○講座「万葉集を読む」月1回 ○万葉古代学講座 年数回 ○歴史講座「大和歴史紀行」 講師は当館研究員が中心となって進められています。もう少し文化館が近くにあるならば、ぜひ受講したい内容です。 森岡美子著「萬葉集物語」(1953年)には、「万葉集はだれでも一度は読んでおかなければならない本といえましょう。」と述べ、万葉集がなぜ尊いのか、次の4点を挙げています。 @素直な雄大な歌風・純朴・真実の心。 Aあらゆる段階の、あらゆる日本人、すなわち国民全部の歌集であること。 B千年以上も前の日本人の生活状態や感情を知ることができる。 C古代の日本語の研究をするための重要な材料であること。 素朴な表現によって、現在の我々にもその思いが伝わってくる。決して難しいものではなく、もっと気軽に楽しんで読んだらよいと考えます。 ◇韓衣袖に取りつき泣く子らを 置きてそ来のや母なしにして 母を亡くした子をおいて遠い地へ行かなければならない父親の思いが伝わってきます。 ◇淡海の海夕浪千鳥汝が鳴けば 心もしのにいにしへおもほゆ 近江に都があった世を偲んで作った哀愁を感じさせます。 この2首は、高学年の学習で使いました。近江京の歴史について説明する必要はありますが、万葉の時代の人々の思いに共感することができました。 万葉集・和歌を身近なものとして感じるような学習が、もっと必要ではないでしょうか。子どもたちが万葉文化館を訪れるのもその一つとなります。 (草津市立志津小)
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