考えを作ろうとする子どもの姿
岡 嶋 大 輔

 「海の命」(光村図書六年)を扱った授業。単元を通して、「太一に影響を与えた登場人物の言動」を探し、その言動と結びつけて「太一が抱いた海への思い」を追っていった。
 各授業の前に、六年生の担任団四人で話し合いを重ねながら授業づくりをしていったが、その中で、個々の子どもが自分の考えを作るための時間をどうするかということが話題になった。

 一授業の一部分で個々が初めて考えるには時間が短く、一時間丸々を使うには長い。しかし、宿題として出すには支援の必要な子が大変だろう。ということで、まずは、朝学習の十五分を使って自分の考えを持ち、その日の国語の時間に臨むようにした。担任団の心配をよそに、どの子も一つ以上は「人物の言動」を青い付箋に、「太一の思い」を赤い付箋に書くことができた。その時間設定が適切だったからか、単元を通して追っていったその課題がシンプルで分かりやすかったからか、後で考えを交流する見通しがあったからか、その手応えがあったことを担任団四人で喜び合った。

 左へと長くのびる「太一の変容を表す矢印」が描かれた大きな紙面。授業の中で、その上段に「人物の言動」、下段に「太一の思い」の付箋を貼りながら、四人程度のグループで考えを交流していく。その際、似ているところがあれば近くに付箋を移動して貼り、つながるところがあれば線で結んだり囲んだりするよう指示した。
 グループ交流の後、「今の自分の考え」や「『いいね』と思ったこと」を一斉の場で出し合った。グループで考えのやりとりを経たからか、挙手に勢いがあるのは嬉しい。

 「太一が与吉じいさになかなかつり糸をにぎらせてもらえなかったのは、じいさが太一をまだ信頼していないから。」と発言するA男。それに続き、「太一は海の厳しさをまだ、分かっていない。」「海の厳しさとは何か。」「まだ村一番の漁師と認めていない。」「どうなったことが村一番の漁師か。」「『千匹に一匹でいいんだ。…。』の本当の意味が分かること。」「その本当の意味って何。」と話題が続く。A男は、頷きながら聞いている。そして授業のふり返りに、「つり糸を握らせてもらえなかった理由についてたくさん考えられた。じいさは、人間が生きていくために必要最小限食べるだけ海の命をいただくことが大切だと教えたいと思う。ほかの理由でいのちを奪ってはいけないことだと思う。」ということを書いた。

 考えを広げたり深めたりするための「もと」となる「自分の考え」作りの時間は、やはり大切だと感じた。そして、はじめの考えに固執するでもなく、誰か任せにするでもなく、他の考えを聞きながら一生懸命自分の考えをつくろうとする子どもの姿に頭が下がる思いである。
(野洲市立野洲小)