全国文学館めぐり(7) 椋鳩十文学記念館
北 島 雅 晴
鹿児島中央駅より日豊本線で加治木町まで約30分。日豊本線は錦江湾岸を走り、桜島を望む車窓からの風景が美しいことで知られています。加治木町は椋鳩十が高等女学校に勤めていた時代に20年近く住んでいた街で、「鳩十第二の故郷」と言うことができます。 本記念館は遺族の協力を得て、この地に平成2年6月に建てられました。敷地内の庭園には、八種類、百八本の松が植えられています。椋鳩十は少年時代を伊那谷で過ごしました。伊那谷の赤松を好きだったことから、たくさんの松が植えられたのかもしれません。 記念館の入り口には、椋鳩十の辞世の詩が展示されています。 精神的にも肉体的にも 松風になりたい 日本の村々の人たちが 小さい小さいよろこびを 追っかけて 生きている ああ美しい 夕方の家々の窓の あかりのようだ 昭和62年12月17日に亡くなるその前日に詠んだ詩を、妻のとみ子さんが書き留めたものがもととなっています。自然と共存しながら小さな幸せを願う椋鳩十らしさが伝わってくる作品です。 ○椋鳩十の生い立ちに関する展示 詩の世界(大学時代)・山窩の世界(教員時代)・動物文学の時代(図書館長時代)・民話の世界・離島物語といったコーナーがあり、それぞれの時代における作品が紹介されています。椋鳩十は動物文学作家として有名ですが、執筆活動に専念したのは、晩年のわずかな期間だけです。加治木高等女学校に18年、鹿児島県立図書館長として20年、鹿児島短期大学教授として20年勤めています。その合間をぬうように、多くの作品を生み出しました。 ○執筆をした書斎の復元 和室六畳の中央にこたつがあり、その横に仕事をした座椅子と机があります。部屋の両側は本棚で、かなりの量の蔵書がありました。 ○椋鳩十作品のアニメ上映 全28本、各20分程度のアニメ化された作品を鑑賞することができます。 ○執筆原稿・取材ノートの写し 各地の山を歩き、聞き取ったことや作品の構想をメモしたノートを閲覧できます。取材ノートは200冊ほど残されています。 椋鳩十の作品は、 ・人間と自然との共存、動物のすばらしさを描いた作品が多い。 ・表現が簡潔でテンポがよい。 ・物語の構成が分かりやすい。 ・情景描写が優れている。 という特徴があります。「大造じいさんとがん」以外にも次の作品はぜひとも子どもたちに読んでほしいです。 「月の輪グマ」 「片耳の大シカ」 「栗野岳の主」 「山の太郎グマ」 「ハブ物語」 「自然の中で」 「マヤの一生」 「動物スケッチ」 「モモちゃんとあかね」 図書館長時代に進めた「母と子の二十分間読書運動」は、全国的な読書活動として広がっていきました。子どもが本を読むところをお母さんが隣に付き添って聞く、というだけの極めてシンプルな活動ですが、読書習慣をつけるというだけでなく、親子のふれあいを深めるという効果も生まれました。現在の読書指導にも活かすことができそうです。 ※生まれ故郷である伊那郡喬木村にも、椋鳩十記念館があります。平成4年8月に喬木中学校跡地に建てられました。周囲は「椋文学ふれ愛散策路」が整備され、椋少年が過ごした当時に思いを馳せることができます。 (さざなみ国語教室同人)
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