温かいしつけ
弓 削 裕 之

 6年生の校外学習で、こんな出来事があった。
 建物に入るために子どもたちが靴を脱いでいる時、ちょうど建物の中から出てこられる方と鉢合わせになった。しばらく立ち止まって待ってくださっていたので、私は子どもたちに道をあけるように指示した。が、指示が悪かったのか、子どもたちはその場で固まったまま臨機応変に動けず、結局その方は別の場所で靴を履いて出て行かれた。不快な思いをされた様子で、自分の指導が至らなかったと反省した。

 電車に乗って移動していた時、下車する際に他の乗客の方と再び鉢合わせする場面があった。失礼なことがあってはならないと、慌てて私が声かけをしようとすると、その方が「先にどうぞ」と道をゆずってくださった。すると、今度は子どもたちが、「いえいえ、どうぞ」と道をゆずる素振りを見せた。乗客の方は、「そんな、遠慮なんてしなくていいんだよ」と子どもたちを先に下ろしてくださった。子どもたちは「ありがとうございます」と照れたように会釈をしていた。

 先日、教育テレビの子育ての番組で、「子どもがあいさつをしなくて困っている」という視聴者からの相談を紹介していた。専門家は、「無理にさせなくてもいい。子どもの横で、親が気持ちよくあいさつをしていれば大丈夫」と答えていた。そう言えば、普段ははずかしがってなかなかあいさつをしない我が子が、毎日出会う福祉施設の方にだけは元気なあいさつを見せていた。その方は、我が子に出会う度に、必ず自分から大きな声であいさつをしてくださっていた。

 毎週月曜日は全校朝礼がある。そこでは、先週の週番児童が週目標について振り返り、スピーチをすることになっている。「正しい言葉づかいをしましょう」という目標を振り返って、6年生が次のようなスピーチをした。

「運動会の一・六競技(一年生と六年生がペアになって行う障害物競走)の練習の時、一年生がとても丁寧な言葉で話していました。六年生も、六年生同士では丁寧でない言葉で話してしまっていたけれど、一年生と話す時は丁寧な言葉をつかっていました。一年生の言葉づかいに、六年生がよい影響を受けたのかなと思いました。」

 最近、「しつけ」とは何か考えさせられることが多い。もちろん正解は一つではない。ただ私は、早く身につかなくてもいいから、長く身につく方法を考えるようにしている。考える際のキーワードは、「優しさ」と「誠意」。「こうさせたい」と焦って指導するよりも、まず、自分が優しさや誠意を持って子どもたちに接してみる。心が動くのは、心に触れた瞬間しかないと思うからだ。
(京都女子大学附属小)