全国文学館めぐり(4) 小川未明文学館
北 島 雅 晴

 1614(慶長19)年、上杉家の居城であった春日山城の後を受けて、高田城が作られました。高田城跡は、JR高田駅より徒歩30分の所にあります。現在は高田公園となり、「日本の歴史公園百選」の一つに認定されています。お堀の一部を利用して蓮池が作られており、夏は蓮をめあてに多くの市民や観光客が訪れるそうです。この公園の一画に小川未明文学館があります。

 文学館でお話を伺った方が、偶然、私が勤務する隣の小学校に親戚がいるということがきっかけで、ていねいに説明をしてくださいました。文学館の開館は、平成17年10月です。計画段階で、公共図書館の一画に設置するか、独立した文学館として建設するかということを議論し、前者に決定したそうです。
 ○未明を慕う人々の心の拠り所
 ○こどもたちの心を育む施設
 ○未明研究者への対応
という柱を挙げています。
 子ども向けの取り組みとしては、「未明ボランティアネットワーク」の活動があります。市内の小中学校を回って、未明の作品の読み聞かせ等を行っています。先生から最も要望の多い作品は「赤いろうそくと人魚」だそうです。未明の出身校大手町小学校(当時岡島小学校)は、児童文学作家杉みき子の出身校でもあり、当小学校での取り組みがあれば参観したいと思いました。
 未明の遺族から預かった写真・手紙・手書き原稿は、かなりの数にのぼり、定期的に入れ替えを行っているそうです。館内は、映像コーナー・展示コーナー・図書コーナーの3つの空間で構成されています。映像コーナーでは、未明の生涯を紹介したビデオの他、代表作品を視ることができます。展示コーナーでは、未明の生涯を年代別に紹介し、特に学生時代に小説が生まれるまでの経過がよく分かります。また、図書コーナーでは、小川未明文学賞(平成26年において第23回を迎える)の大賞作品の本が置かれているところが注目です。

 未明は1882(明治15)年、新潟県高田生まれ。19歳で上京し、坪内逍遥から文章の指導を受けます。27歳頃から作家としての道を歩み始め、32歳頃からは童話の創作も始めるようになりました。特に30代後半から40代前半にかけて、最も多くの童話を発表し、この頃の童話が代表作となっています。
 未明の作品は、社会背景を反映して、作品の主題・書きぶりの大きく変化するのが特徴です。「野薔薇」では戦争反対の立場をとりますが、昭和12年には「僕も戦争に行くんだ」という戦争に協力する作品を発表します。作風面からみると、空想的な作品から現実の生活を描いた作品へと変わります。
 未明は1200を超える童話を発表しています。その中で、子どもに読んでほしいと思うものを7作品挙げます。
 「月夜とめがね」 「野ばら」 「島の暮れ方の話」 「青いボタン」 「とのさまの茶わん」 「はてしなき世界」 「月とあざらし」

   先日、同僚に未明の話をしたところ、未明を知らないという答えが返ってきました。私は、未明を児童文学の創始者であり、その価値を高めた人だと認識していたので、未明を知らないということに、意外な感じを受けました。アンデルセンや小川未明は忘れ去られた存在になってしまったのかもしれません。近年になって、未明の童話が再び評価されるようになってきました。時代背景は古くても、良い作品は子どもたちに読み継がれていってほしいと思います。
(さざなみ国語教室同人)