短歌に親しむ(その1) 〜□にしかめやも〜
北 島 雅 晴

 万葉集を教材とした学習を行った。日本の古典に触れる機会をつくること、短歌への関心を高めることの2つをねらった学習である。1300年近く前に編纂された古典となると、5年生の子どもたちにとっては遠い存在となるが、古代の人々が現在と変わらない思いをもっていたことを知ることで親しみが湧くのではないかと考えた。

 まず始めに、万葉集についての簡単な説明をした。
 ○短歌は、昔の人々にとって、自分の思いを表現するための大切な素養であったこと。
 ○万葉集は今から1300年もの昔に作られた歌集で、さまざまな立場の人の作品が4516首収められていること。 など
 取り上げた短歌は、山上憶良の作品。

 銀も 金も玉も なにせむに まされる宝 口にしかめやも

 視写をした後に何度か音読をすると、大体の意味が想像できるようになる。「金銀や珠などみな尊い宝ですが、□以上に尊い宝がありましょうか。」という意味を確かめた後、□に当てはまる言葉は何か、どうしてそう考えたかを交流する学習を行った。(以下、Cは児童の発言。)
C 私は、命だと思いました。宝よりも命が大切だからです。
C ぼくは、家族だと思います。家族みんなで協力していかないと楽しく生活できないからです。
C ぼくは、友だちを選びました。友だちと過ごす時が一番楽しいからです。
 その他、お米・絆・優しさ・協力・本・勇気・愛といった言葉が出された。自分に置き換えて宝物を考えたと思われる。

 そのうちに、字数に目をつける子が出てきた。最後が七文字だとすれば、□に入るのは一文字。 「いいところに気づいたね。憶良さんは、あなたたちのお父さんやお母さんと同じ年齢の頃に作った歌だと思うよ。」
と、ヒントを与えた。すると、
C 分かった、「子」だ。
と、叫ぶ子があった。

 学習の最後に、憶良の歌をもう1首紹介した。

 わかければ 道行き知らじ 幣はせむ 黄泉のつかひの 負いて通らせ

【大意】私の死んだ子はまだ幼いから冥土への道が分かりません。冥土のおつかいの人よ、お礼をするので、この子を背負ってやってください。
 この2首を合わせてとらえ、幼くして我が子を失った憶良の、子を思う優しさや悲しみを感じ取ることができた。
(草津市立志津小)