巻頭言
「言葉を教える」とは…
土 居 正 博

 「心は熱く、頭は冷静に」
 全国大会出場を目指し、四六時中サッカー部の活動に打ち込んでいた高校時代、熱心に教えていただいたコーチから教わった言葉です。試合中、熱くなりすぎる私を諌めて下さった言葉でした。

 コーチは高校サッカー部のOBでした。当時私の高校ではサッカー部にコーチを雇うような環境は到底整っておらず、ボランティアで教えていただいていました。土日はほぼ毎日。大会が近づくと、平日でさえグラウンドに足を運んでくださりました。当然、他に仕事をしながら、です。「絶対に全国大会に行く。お前らの代で絶対に行く。」とおっしゃっていました。私の代はそこまで強いわけではなかったですが、「熱い」心で信じてくださっていました。一方、プレーの指示はいつも「冷静」で的確。試合前のミーティング等で相手の分析をしてくれていました。
 そんな、「心は熱く、頭は冷静に」を身をもって示しているコーチの言葉だったからこそ、深く納得し、私の中に入り込み、存在し続けています。
 結局、私たちは東京都大会ベスト16止まり。全国大会には出場することはできませんでした。

 その後、私は大学へと進み、教員になり、あんなに打ち込んでいた「サッカー」が自分の人生から消えました。しかし、「心は熱く頭は冷静に」というコーチから贈られた言葉は今も胸に突き刺さったままです。この言葉に今の自分が「生かされて」います。  生身の人間を相手にする教育現場、一筋縄ではいかないことだらけです。そんな時、「冷静さ」が必要になります。どうやったら子どもたちに力をつける授業ができるのか。冷静に思考するしかありません。しかし、その「原動力」となるのは「教育への情熱」、つまり「熱さ」だと思っています。「熱さ」と「冷静さ」両面を持った教師になりたい!と日々教壇に立っています。

 1月、自身初の単著を上梓することができました。まだまだ中身の薄い本ですが、「心は熱く、頭冷静に」を自分の指針にし、子どもを伸ばすことに打ち込んできた結果だと思っています。
 子どもたちに「言葉」を教える国語教師だからこそ、「言葉」だけが浮つかないよう、コーチのように自分の「姿勢」で伝え、子どもの中に響かせていく…、そんな教師を目指していきたいと思います。
(川崎市立富士見台小学校)