巻頭言
学校図書館の可能性を拓く
坂 下 直 子

「校庭でつかまえたカマキリのカマタン(児童が命名)がオスかメスか知りたいです。」と言ってカウンターに来てくれる三年生。「次の単元の教材研究をしますので関連する資料を提供してください。」と扉を開けてくださる先生方。「私たち夫婦が好きだった探偵小説を娘にも。」と相談してくださる保護者のかた。小学校の図書館でのひとこまです。

 私が現在の小学校で司書として勤務させていただいて十年目を迎えます。ご存じのように学校図書館法にうたわれている学校図書館の使命は「教育課程の展開に寄与する」ことであり、私たち学校司書はいつもそれを念頭に置いて仕事をしています。
 また、@読書センター、A学習センター、B情報センターとしての役割も忘れてはならない重要事項です。

 しかし、一方で、私の中でいつも何か満たされないものが横たわっていました。学校図書館の存在価値についての想いです。公共図書館の司書とは違い、学校という教育現場でしっかりとした役割を担うためには、どうしても教育学を学ぶ必要があると思える場面を何度も経験しました。そこで思い切って京都大学大学院教育学研究科の門をたたきました。

 図書館情報学ではなく、教育方法学という視点から学校図書館を見た時、そこには全く違った景色がありました。アクティブラーニング、カリキュラムマネジメント等も含めて視界が広がり、思考が深まったと感じます。
 連綿と続く教育学の歴史の中では、デューイの『学校と社会』に著された図書館を中心とした図に見られるような経験主義、それと対比して語られる系統主義の教育観が存在しています。学校図書館は様々な教育観と密接に関係して、その内実を変えてきました。

 倉沢栄吉先生は、御著書『国語科単元学習と評価法』の中で、単元学習の内部について「まずその流れを一貫しているものは、興味(関心)である。それは外にあふれて、旅行となり、現場学習、インタビューとなり、図書館となり、演劇というような活動となって現れている。」と記されています。その倉沢先生が、この研究誌の創刊号で巻頭言を著されたと伺い、貴い縁(えにし)を感じずにはいられません。

学校図書館は、学校の中にありながら、世界に通じる窓のような異空間性を持った、セカンドプレイスの中のサードプレイスです。
 温かく応援してくださる先生方や子どもたちにご恩返しができるよう、今日も明日も学び続けます。
(京都女子大学附属小学校)