二度目のあいさつ
弓 削 裕 之

 毎朝、あいさつ当番の教師が、校門であいさつ指導に当たっている。子どもたちは、ただあいさつをして通り過ぎるのではなく、教師の前で立ち止まり、学校で教わった「正しいあいさつの仕方」であいさつをしている。

 まだ私が勤めて間もない頃、印象的な出来事があった。その日は私があいさつ当番で、次々に登校してくる子どもたちに、正しいあいさつの仕方であいさつをしていた。ある2年生の男の子の順番になった。まず子どもの方から、「おはようございます」とあいさつをする。次に私が「おはようございます」とあいさつを返す。同時に頭を下げ、1・2。3でさらに深く頭を下げて4で再び顔を見合わす。他の子と同じように、その男の子も正しいあいさつをした。担任の先生にしっかりと教えてもらったのだろう、声の大きさも、頭を上げ下げするタイミングも完璧である。最後に目と目を合わせたあと、私は次に並ぶ子に意識を向けようとした。すると男の子は、もう一度、私に「おはようございます」とあいさつをした。今度は軽く会釈をし、小さな声で、少し照れたような表情で。

 あいさつ指導を始めて、何年が経っただろうか。最近附小では、さらにあいさつであふれる学校にしようと、「あいさつカード」の取り組みを始めた。あいさつをがんばっている子に教師からごほうびシールを渡し、シールをたくさんもらった子の名前を、毎月正面玄関に掲示するのだ。この取り組みを始めてから、特に朝の時間は、校舎内が子どもたちのあいさつの声であふれるようになった。どこにいても、「おはようございます!」という元気な声が聞こえてくる。これまで受け身だった子も、自分から人を探しに行き、進んであいさつをするようになった。正面玄関の掲示に自分の名前が載った子は、うれしそうに報告してくれた。

 毎朝、職員室前の廊下に、あいさつカード片手に教師が来るのを待っている3年生の女の子がいる。私が職員室から出てくると、その子はすぐに背筋を伸ばして気をつけをし、あいさつをする準備をする。「おはようございます!」1・2・3・4。目と目が合う。完璧なあいさつだ。私はシールを渡し、自分の教室に向かった。途中で何人もの子とすれ違い、あいさつを交わした。既にシールを渡した子の中には、もうシールがもらえないと思ってか、あいさつをしない子もいた。シールのことに限らず、二度目に会った時のあいさつは、もう一度するものかどうか、大人でも迷うところである。

 その後、再び職員室に向かうと、あの女の子はまだ同じ場所でカードを手に立っていた。会うのは二度目だけれど、あいさつをしてくれるかな・・・そんなことを思いながら女の子の前を通った。私と目が合うと、女の子は少し照れたように笑って、軽く会釈をし、「おはようございます」と言った。先程のあいさつとは違ったが、何だかうれしいあいさつだった。

 その日から、女の子は出会う度に必ずあいさつをしてくれる。「○○さんとあいさつをしないと、一日が始まった気がしませんよ」と言うと、また照れたような顔をしていた。
(京都女子大附属小)