模擬授業 24分の1の『ごんぎつね』
好 光 幹 雄

 兵十はかけよってきてました。うちの中を見ると、土間にくりが固めて置いてあるのが、 目につきました。 「おや。」
と、兵十はびっくりして、ごんに目を落としました。
「○○○○、△△△△、□□□□、◇◇◇◇。」
ごんは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
兵十は、火なわじゅうをばたりと取り落としました。蒼いけむりが、まだつつ口から細く出ていました。

 『ごんぎつね』最後の場面です。4年生で誰もが学習する『ごんぎつね』は、高学年になってもその教材の特徴を生かして、国語の学習に利用することが出来ます。その方法を私は「24分の1の『ごんぎつね』」と称しています。
 兵十の最後の言葉、
「○○○○、△△△△、□□□□、◇◇◇◇。」
 この会話文を忘れた頃の高学年で、会話文の持つ特徴を理解し、物語の中での会話文に注目して読むことをさせたいと思います。ですから、例えば、『大造じいさんとがん』の導入に以下のような授業をします。

T 『ごんぎつね』の最後の場面 だね。みんなどうなったか覚えてい ますね。兵十がかけよってきて、土間の栗をみて言うのですね。兵十は何と言ったか覚 えていますか?
「○○○○、△△△△、□□□□、◇◇◇◇。」
の部分ですが、 兵十の会話文は、4つの句読点を使って表現されてい ました。その4つの部分とは、「いつも」「ごん」「くりをくれたのは」「おまいだったのか」の4つです。実際には、どんな順番で兵十は言ったのでしょうか。みんな、 新美南吉なったつもりで、この会話文を考えてみてください。どんな順番でこの4つを組み合わせると一番この場面にふさわしいでしょうか。
 こんな投げかけで会話文の組み合わせをいろいろと考えてみます。4×3×2×1で、24通りの会話文が考えられるのです。しかし、南吉が書いたのは、24通りのうちの一つです。

 子ども達は、いろんな場合を考え、会話文の微妙なニュアンスの違いを考えて会話文を作ることでしょう。別に正解を導き出す必要はありません。南吉が書いた以外の会話文でも、この場面にしっくりくるものがあるかもしれません。ただ、子ども達には、ちょっとした会話文でも、言葉を選び、順番を選んで作者は書いていることに気づいて欲しいのです。そうすることで、『大造じいさんとがん』(物語)の中の会話文も丁寧に読み取って欲しいと思うのです。
 実際の会話文は、「ごん、おまいだったのか、いつも、くりをくれたのは。」です。何故一番最初に「ごん」と持って来たのでしょうか。そんなことを考えるだけでも、物語全体の中で会話文が占める効果の大きさや表現の柔軟性に考えが及んで欲しいと願います。グループで話し合ったり、全体で意見を出し合うことで楽しい交流も出来ると思います。この会話文は兵十がごんに語りかける会話文でした。

 同じく『大造じいさんとがん』なら、大造じいさんががんに語りかける最後の会話文で考えることが出来ます。大造じいさんなら、がんがおりからでて羽音一番飛んでいく最後の光景を見て、なんと言っているのか、会話文を丁寧に読み取ることが可能になると思うのです。そんな読みが、物語のストーリー性だけでなく、実際の会話文を読み味わうことに繋がると思うのです。是非、こんな授業をやってみたいと思います。
(大津市立小野小)