教 生 先 生
弓 削 裕 之

 教育実習の初日、子どもの前で自己紹介をする教生先生は、とても緊張している。話し方はぎこちなく、目は宙を見ている。話す内容も、二言三言。でも、無理に長く話すようには、指導しない。

 一週目は、とにかく子どもたちと関わってもらう。一週目でできた子どもたちとの関係が、二週目の授業に生きてくる。今年の5年生は、鬼ごっこが大好き。教生先生は、休み時間は汗だくで走り回る。はじめは先生から混ぜてもらっていたが、すぐに、子どもたちの方から先生を誘うようになる。教生先生が、いつも手を抜かず一生懸命だから。

 一週目の放課後は、子どもについて語る時間にしている。気になったことなども話題にするが、メインテーマはいつも、「子どものよいところ」。教生先生は、子どもたちのよいところを見つける名人だ。「Aさんが、忘れ物をしたBさんに気付いて、自分から貸してあげていました。」「Bさんは、何度もありがとうと言っていました。」どんな小さなことでも、ノートにメモをしている。教生先生の話を聞いていると、「今日一日で、こんなにほめるところがあったんだ。私は、どれだけほめてあげられただろう」と、いつも反省する。「少し前までは、子どもたちが先生と呼ぶと、それは弓削先生だったんです。でも、最近、先生、先生と呼んでくれるようになりました。」一週目が終わる頃、一人の教生先生が、うれしそうに話してくれた。そう言えば、「先生」と呼ぶ声が聞こえて返事をすると、子どもの目が私ではなく教生先生の方を見ていたことが何度もあった。そして、この頃になると、子どもたちが教生先生に決まって尋ねる質問がある。「先生、いつ授業するんですか。」「何の教科をするんですか。」子どもたちは、その日を心待ちにしている。

 二週目の放課後は、実地授業の振り返りが中心となる。でも、教生先生は、そんな時も子どもたちの姿を伝えることを忘れない。他クラスと合同の授業を担当した先生。「他のクラスの子が騒がしかったとき、Cさんが、先生の話を聞くように注意してくれたんです。あのDさんまで…。」うれしさのあまり、声を詰まらせる。教生先生は、涙もろい。

 いよいよ、実習最終日。子どもたちの前で最後の言葉を言う教生先生。前もってお願いしていたわけでもないのに、驚くほどたくさんの言葉がこぼれる。目は子どもたち一人ひとりの表情を確認するように、優しく左右に動く。二週間、子どもたちと過ごして、伝えたいことがあふれ出しているのだろう。話したくなるような経験もさせていないのに、「3分間話しなさい」と子どもたちを追い詰めていなかったかと、また自分を省みる。

 最終日の放課後、わたしの机の上にある子どもの日記が置かれていた。今日は家に持ち帰る日なのに。「今日で教生先生とお別れです。寂しいです。教生先生、二週間本当にありがとうございました。」家に持って帰ったら、この気持ちを先生に伝えられないと思い、こっそり置いて帰ったのだろう。
 いつも涙もろい教生先生。もちろんその日記を読んで、大泣きしていた。
(京都女子大学附属小)