メルヘンの森 〜命の源〜
好 光 幹 雄

 森の中を歩くと、枯れて倒れた大木があります。そんな大木も朽ちて土になり、やがて豊かな森を 作ることになります。
 枯れた大木の株の上には種が落ちて、そこから新たな命が芽吹いていることもよくあります。森は 命の連鎖のドラマを、幾つも幾つも私達に見せ、教えてくれます。
 この世に、余計なもの、無駄なもの、不要なものは、何もないのだと。
 森の中の営みには、全て意味があり、価値があるのだと。
 枯れて朽ちても、尚、命の連鎖に、全てのものは、役に立つのだと。
 だから私は森が好きなのです。深い森の中には命を育む豊かで神秘的な力が宿っているからです。

 私が病から少し立ち直り、ほんの少し元気が出てきた新緑の美しい頃でした。リスを見に行こうと、末娘が私を森に連れ出してくれたのです。彼女がまだ小学校二年生の時でした。そして、大木の梢に走るお目当てのリスを見つけました。彼女は大喜びでした。
 更に、森を進んで峠までやって来た時、一緒に歩いていた娘が言いました。峠道の傍らに、こんこ んと湧いて流れ出ている泉を見て「この最初の一滴はどこから来るの?」
「うん、そうだな。」
 そうして、二人でその最初の一滴を探すことになりました。
 何十トンもある大きな岩の下から湧き出ている泉のその岩の向こう側に出ても、何もありませんで した。しかし、深く積もった落ち葉をめくれば、「ポタッ、ポタッ」と一滴が零れ落ちています。その「ポタッ」の一滴の一番最初を求めて、落ち葉をめくりながら進んで行きました。
 峠の一番上近くで、その「ポタッ」は、小さな雫になって娘の目の前に落ちました。
「お父さん、あったよ!一番最初の一滴だよ!見つけたよ!」
 あんなに感動的な顔をした娘の笑顔は初めてでした。

 豊さとは、この一滴一滴の集まりなのだと。
 豊かな泉は、この一滴から始まるのだと。
 地中から湧き出す泉の源は、ここにあったのだと。
 森を歩き、森の豊さを知り、そして森の泉の源を知りました。
 こうして、森は、目には見えないところで、命の連鎖をたゆまなく培っているのです。
 あの日歩いた森に、そして森の原点を探そうと示唆し、教えてくれた末娘に、今も深く感謝してい ます。
 そして思います。人も森のようにありたいと。
(大津市立小野小)