ありがとうを伝えよう
岡 嶋 大 輔

 2年生の教室。
 教室での様子を見てもどこか元気のない印象を受けるAさん。クラスに笑いが起きても、彼だけは少し遠くを見るように無反応だった。算数の学習で個別に説明しても、話が入っていかない感じが伝わってくる。  Aさんは、朝一番に教室に入ってくることが多い。チャンスとばかりに、私はAさんに話し掛けていた。その時も「うん。」といった簡単な返事ばかり。

 そんなAさんが少し変わったなと思ったのは、九月の半ば頃だった。
 その頃、国語の学習で、身近な人に「ありがとう。」と感謝の気持ちを書いて伝えようと取り組んだ。  学習内容としては、「(宛名)へ」「本文」「(自分の名前)より」という順序で書くということと、「誰に」「どんなことを」書くか決め、「どんなことを」の部分や、そのことに対して自分は「どう思ったのか」ということを少し詳しく書いていこうというもの。
 それをカードにし、ちょっと格好良く、開けると絵が飛び出すような簡単な細工も教えた。

 Aさんが書いたのは、お父さんに向けての「ありがとう」だった。
 「いつもバスケットを教えてくれてありがとう。」「それでうまくなって、バスケットが大すきです。」「おこられている時もあるけど、よこゆれをやって、ぼくはぬけるようになりました。」「ぼくは、土日いつもがんばるよ。」といった内容。飛び出す絵には、笑っている本人とお父さん、そしてその間にバスケットボールが描かれていた。
 カードは、相手の人に「手渡しで」「相手の方を見て」「一言添えて」渡そう、という宿題を出した。

 一週間のできごとの中で一番心に残ったことを書く課題を出した時のこと、Aさんは、そのカードを渡した時の様子を書いた。
 「お父さんが帰ってきてカードを渡したら、よろこんでもらえてうれしかった。」「そして、お父さんに『土日のバスケットがんばろうね。』って言われて、ぼくはがんばる気持ちになりました。」「ぼくは、うれしい思い出にしたいです。」といった内容。笑顔でのやりとりが見えるようでうれしい。
 普段でもAさんの笑顔が増え、私との朝の会話も何気なく交わしているなと感じていた頃である。最近は、バスケットボールでできる技も増えてきたと話してくれた。
 Aさんの元気の素は、バスケットボールとお父さんなのだろうなと思う。そんなことを教えてくれた国語学習の一コマだった。
(野洲市立野洲小)