受 け 継 ぐ 
好 光 幹 雄

「みんな胸に手を当ててごらん。ほら、どきんどきんて鳴ってるね。このどきんどきんは一体誰のどきんかな。いつからあるどきんかな。」

 17年前、80歳で亡くなった私の父の葬儀の為に2日間学校を休みました。しかし、葬儀の翌日から私は学校に復帰し、教壇に立ちました。校長先生から、もっと休んでいいのにと言われました。しかし、亡くなった父に、「早く現場に戻れ」と言われているような気がしたのです。
 子どもたちも、先生、もういいの?というような目で私を見ています。恐らく好光先生はしばらく休みになるからと聞かされていたのかも知れません。いえ、子どもたちの素直な気持ちは、「先生、もう寂しくないの?」といった気持ちなのです。そこで、私は、子どもたちにこんな話をしました。

「先生のお父さんが先日亡くなりました。… ところで、みんな胸に手を当ててごらん。ほら、どきんどきんて鳴ってるね。このどきんどきんは一体誰のどきんかな。いつからあるどきんかな。
 このどきんはね、赤ちゃんのときからあるね。つまりね、お父さんとお母さんの間にみんなの命が誕生したときからあるんだよ。だから、このどきんどきんはね、みんなのお父さんとお母さんに分けてもらったどきんなんだよ。
 じゃあ、みんなのお父さんやお母さんのどきんは誰のものかというと。そうだね。みんなのおじいさんおばあさんから分けてもらったどきんなんだよ。そうして考えると、みんなのどきんは、みんなの自分一人だけのどきんじゃなくて、遠い遠いご先祖様からずっと受け継がれてきたどきんなんだよ。
 先生の胸の中には、この遠いご先祖様からのどきんが受け継がれ、そして、先生のお父さんお母さんのどきんも一緒に受け継いでいるんだよ。先生の胸の中には、今も先生のお父さんが生きているんだよ。だから寂しくないんだよ。胸に手を当てればお父さんに会えるからなんだよ。」

 ゆきちゃんという女の子が、私の話を聞いて、ぽろぽろ涙を流しました。
 後日、気になってお母さんに出会って話を聞くと、私から聞いた話を家に帰って、そっくり全部話したといいます。先生の話が胸にじんときたというのです。
 ゆきちゃんは、今、小学校教師となり、日々奮闘しています。受け継ぐ大切なものは、命以外にもたくさんあることを知って。
(大津市立小野小)