巻頭言
極北の黄金郷
川 辺 一 雅
それは突然にやってきます。真夜中。気温マイナス20度の凍った湖の上。特製防寒着を着ていても目も鼻も息もパリパリ。ああ、もう耐えられないと思ったころ、突然、空の一部が白く光りだします。ああっ!というまに全天がカーテンのようにゆらめきます。色とかたちを変えながら、まるで生き物のように。これがオーロラか!感動するより前に、ぞっと怖くなるような壮大さ、神秘。私は、腰を抜かしたように雪にすわりこむばかりでした。 そこはカナダのノースウェスト準州イエローナイフ。北極から400キロほどという亜北極。カナダの地図でいえば、まんなか上にぎざぎざした島がたくさんあるあたり。2015年3月、友人の1年がかりの計画と白熊印の飛行機に乗っかり、たどり着いた人生最北の地でした。 3月でも最低気温がマイナス40度を下回ることもあるという気候です。氷のドームに住んでいる人がいるような場所ではないかと想像していました。 ところが、着いてみたらまったくちがいます。小さな町ながらビルやホテルが建ち並び、ぴかぴかの高級車が行き交います。レストランやバーは老若男女でごったがえしています。郊外にはしゃれた住宅が続きます。ガイドさんに聞いたところ、イエローナイフの平均年収は日本のそれの軽く倍以上だとか! はて、オーロラ観光とは、そんなに経済効果があるものなのか??? ……さにあらず。近年、北の湿地帯のなかにダイヤモンド鉱山ができて、一大産業になったというのです。まるで現代のゴールドラッシュ。しかも凍った湖沼の上を資材を積んだ大型トラックが走れる真冬こそ仕事どきとか。不便で極寒の場所だったからこそ、長い間、鉱脈が発見されず、開発されなかったということでしょう。いまやイエローナイフはカナダのなかでも最も裕福な町のひとつだそうです。 驚いたことには、街角で物乞いをする人までいます。生業として成り立っているから立っているはず。でも、あの寒さのなかで、だいじょうぶなのでしょうか? いまだに謎です。 私たちは、夜にはオーロラに、昼にはダイヤを求めてやってきた人々の活気に圧倒されっぱなしでした。 北の果ての「エル・ドラード」、一生に一度くらい目指してみる価値はあります! (小学館『総合教育技術』編集部)
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