巻頭言
「ごっこ遊び」と「二人野球」
小笠原 喜一
 小学三年生の一人息子がいる。編集者の仕事は不規則なので、平日は帰宅するのは早くても夜10時。息子と遊ぶのは主に土日ということになる。

 まずは、「ごっこ遊び」から始まる。設定、ストーリー作り、演出担当は息子。この週末は「火星移住ごっこ」だった。主人公は幼稚園の頃から大切にしているゴム製の小さなバイキンマン人形。かじったり、ぶつけたり長年の疲労で片足はとれ傷だらけだが、最も愛着のある人形のようだ。バイキンマンのほか、カンガルーくん、カエルくん、ジバニャン、カレーパンマンなど、幼稚園の頃から持っているものから最近買ったものまで、新旧取り混ぜた人形軍団が登場する。

 異常気象と相次ぐ天災で滅亡寸前の地球からバイキンマンとその仲間たちが脱出。新たな居住地・火星へと旅立つ物語だ。パイロットか気象予報士になるのが夢だという息子は、この手の冒険物語が大好きなようだ。私は息子の指示に従い、動きセリフを言う。バイキンマンの役をやってと言うのでアドリブで「ハヒフヘホー!」などと言おうものなら、「ふざけないで!」とダメ出しをくらう。大人の目から見れば相当ふざけたストーリーなのだが、本人はいたって真剣なのだ。

 これに飽きると二人で近所の公園に出かける。目的はゴムボールでの「二人野球」。基本的にバッターは息子。投げて、守って・・それ以外全部が私。回を重ねるごとにバッティング技術が上達してきて、結構遠くまで飛ばすので私の運動量は半端ではない。50過ぎの身体には相当こたえる。かならず何回かは公園の植木に打ち込みボールが行方不明になってしまう。そのときは植木をかき分け一緒にボールを探す。自分が最初に見つけると、息子は「すごいでしょ」と自慢げな表情を見せる。

 日本の子どもたちは自己肯定感が低いと言われる。自己肯定感を高めるのは小さな成功体験の積み重ねだという。ひとつの物語を自分の頭で考え作り上げる、バッティングで先週より遠くに飛ばせるようになったことを実感する――これも小さな成功体験だろう。息子が父親と喜んで遊んでくれる時間はもう少ない。普段は母親まかせになりがちな子育てだが、休日はできるだけ息子と過ごし、小さな成功体験を積み重ねる喜びを分かち合いたいと思う。
(小学館 総合教育技術編集長)