子どもの心を動かす単元名
弓 削 裕 之

 コピーライターは、一つの広告を作るために、何百通りものキャッチコピーを考えるという。実際に使用するのはその中のたった一つなのだが、何百の中から選ばれた一つだからこそ、そこに確信と信頼を感じる。
 わたしたち教師も、子どもたちに示す前に言葉を吟味する。発問を考えることはもちろん、活動名を吟味することもまた、大切である。アクティブラーニングが叫ばれる中で、子どもたちが学習の入口で出会う単元名は、今までにも増して重要な言葉となる。

 「くちばし」(光村一上)の単元を貫く言語活動について考えたとき、その単元名としていくつか候補を挙げた。
 @ くちばしについてのせつめいぶんをかこう。
 A くちばしはかせになろう。
 B くちばしブックをつくろう。
 C くちばしずかんをつくろう。
 まず、@の「せつめいぶん」は、正しい言葉ではあるが、一年生の心を動かす言葉としては少し硬い。Aの「はかせ」は子どもたちにとって魅力的な言葉だが、この言葉から具体的な学習活動をイメージできない。Bは、くちばしの何について書かれた本を作るのかがわからない。Cの「ずかん」であれば、くちばしについて詳しく書かれた本を作ることが想像でき、図鑑を作るためには言葉を使って説明しなければならないことがわかる。

 Cを採用して1時間目を迎えたのだが、2回目の範読をしたとき、「くちばしずかん」という言葉ではまだ足りないことに気づいた。「これは、なんのくちばしでしょう。」とわたしが問いかけの文を読んだ直後、子どもたちが口々に「わかった!」「わかりました!」などと言いながら手を挙げたのである。子どもたちは筆者からの問いかけをわたしからの問いかけのように感じ、思わず手を挙げたのだ。つまり、子どもたちはこの説明文に出会う前から、「問いかけ」と「答え」を経験していたということになる。子どもたちの文化で「問いかけ」「答え」の関係性が登場するのは、言うまでもない。わたしは、子どもたちに示す直前で、「くちばしずかんをつくろう」という単元名を、「くちばしクイズずかんをつくろう」に変更した。 子どもたちに示すと、「やったあ!」と歓声があがった。早く問題を作りたくてうずうずしている様子で、問いと答えを見つける活動にも力が入った。
(京都女子大附属小)