巻頭言
問い続ける大切さ
新名主 洋一
 私が勤務する鹿児島市立田上小学校は、今年度、創立百三十九周年を迎える伝統校である。全国的にも数少ない代用附属学校として、毎年、鹿児島大学教育学部の教育実習生を受け入れている。また、毎年、公開研究会を実施しており、本年度も五月二十二日に開催した。

 現在、本校では「明日をたくましく生き抜く思考力・判断力・表現力を育成する授業の創造」をテーマに研究に取り組んでおり、今年度は、その二年次として、「『思考スキル』を個や集団で活用し、学びを深める授業」をサブテーマに取り組んだ成果を発表した。この研究では、大きく二つの柱を立てた。一つは、「比較する」「分類する」「関連付ける」といった「思考スキル」を身に付けさせることで、個々がしっかりと考えをもつことができるようにすることである。もう一つが、個人の考えを基に、「協同的な学び合い」 を授業の中に取り入れることである。

 私も六年生社会科「天皇中心の国づくり」という単元で授業を公開した。この授業は、「聖武天皇がなぜ大きな力をもつことができたのか、まとめよう。」を学習問題とし、それまで学習してきた聖徳太子や大化の改新の政策、律令制の確立といったことを比較、関連付けさせながら、単元のまとめを考えさせていく授業であった。こちらが期待したまとめは、「政治の仕組を整えたこと」である。それぞれの政策を確認するところでは、子どもたちが積極的に発言し、スムーズに進んだ。しかし、「では、なぜ聖武天皇が大きな力をもったのか、考えてみましょう。」と発問し、それぞれの政策を比較、関連付けして答えを考える場面になると、とたんに子どもたちの思考活動が停滞してしまった。それぞれの政策が「政治の仕組み」という共通項であることに気付かせることができなかったことに一番の原因がある。また、停滞した際に、何人かの子どもが発言したが、本時の答えとは関連が薄いと捉え、単発の発言だけに留めてしまい、うまくつなげたり発展させたりすることができなかった。何とかまとめまではもっていくことはできたが、事後の授業研究会でも、この点について、多くの御意見をいただいた。

 公開研究会の最後に、吉永先生に「思考力・判断力・表現力を育成する言語活動」をテーマに御講演いただいた。先生の御実践を、ユーモアを交えながら分かりやすくお話してくださった。その中で、私が最も印象に残っているのが、「どうして」「なぜ」と子どもに「問い続けることの大切さ」についてであった。「問う」ことは日頃の授業でも行っている。しかし、単発の発言で終わらせてしまい、子どもの発言と学習のねらいの関連を把握できないままのことがある。これでは授業の流れが止まってしまうだけでなく、授業に深まりが出ない。「問い続ける」ことで、子どもの発言の根拠を子ども自身に明らかにさせることができる。そして、子どもは何とか答えようと必死に考え、言葉を絞り出す。これはまさに、思考・判断・表現する姿に他ならない。どうしても時間を気にしたり、一人の子どもに問い続けると発言しづらい雰囲気になるのではないかと考えたりしてしまい、ついつい問うことに尻込みしていた自分に気付かされた。
 今後、吉永先生からいただいたお言葉を我が校の研究や自分の実践に生かしていきたい。
(鹿児島市立田上小学校教諭)