ほめられちゃった
好 光 幹 雄

「ええ、ぼくかしこないで。褒めてもらうことなんてないで。」
「うううん、そんなことない。賢いで。褒めてもらうことできたやんか。」
「ええ、そんなん、何にもないで。怒られることしかしてないし、いつも怒られてばっかりやし。」
「いいや、今日は賢くなったで。二つも賢くなったで。」
「ええ、ほんまに。何なん。」
「分からへんか。」
「分からへん。教えて。」
「うん、そしたら、言うたげよか。あんな、反省して紙に書きて言うたら、書けたやんか。4つも 自分のあかんこと書けたやんか。一つ目、みんなの勉強の邪魔をした。二つ目…。三つ目…。4つ目…。ほら4つも書けたやんか。反省できたやんか。」
「うん。でも、全部悪いことやろ。なんで賢いの?」
「うん、そうやな。確かにこの4つはしたらあかんことやな。でも、今まで反省して書いたことあったか。ないやろ。今日は反省を書けたやんか。しかも4つも書けたやんか。凄いことやで。賢くなった証拠やで。」
「うん。」
「それからな、先生から逃げへんかったやろ。いつもやったら、運動場に逃げて行ってたやろ。でも、今日は先生から逃げへんかったやんか。凄い賢くなったんやで。ほら、2つも賢くなったやろ。」
「うん。」
 そう頷いて、彼は目を輝かせ、笑顔を見せました。
「今日はな、このこと、校長先生にも言うといてあげるしな。絶対褒めてくれはるで。」
 彼がまた笑顔になりました。
「今日は1時間目だけで、2つも賢くなったんやから、もうちょっとだけ頑張ったら3つ目も賢くなるかもしれへんで。教室に行って頑張るか?どうする?」
「うん。教室に行く。」

 いつも叱られてばかり、褒めてもらうことなんて、滅多にない子のセルフ・エスティ―ム(自尊感 情)は、ずたずたです。投げやりになり、自信を無くし、意欲も無くし、刹那的に行動するしかない のです。反省を書かせましたが、それだけでは、この子たちの自尊感情をもう一度傷つけその上塗りをしているにすぎないと思ったのです。
 そして、一瞬考えました。こんなとき、吉永先生ならどんな行動を取り、どんな言葉を子どもに返されるのだろうかと。私は即座にこの子を褒めることを考えました。誰が見ても悪いことをしたのに、それを契機に褒めることを。褒めるチャンスは探せば宝のように目の前にあるのだと思って。
(大津市立小野小)