嘆 き の 花
好 光 幹 雄

 彼岸花、別名、曼珠沙華の花をご覧ください。
 綺麗ですね。しかし、この花を嫌う人もいます。昔から迷信で、この花を持って帰ると死人が出るとか、家が火事になるとか。
 ですからこの花には、死人花、地獄花、幽霊花等、忌まわしい名前もあるのです。可哀想ですね。
 本当は、この花にはもっと綺麗でありがたい名前が付いてもいいと思うのですが。

 何故なら、この花は、人々の命を救う花だからです。昔から飢饉になると、人々はこの彼岸花の根を掘り起こし、その球根の毒を長時間水にさらして抜き、食べたのです。
 このような飢饉の時の食べ物を救荒食(きゅうこうしょく)と言いますが、これらは米と違って毒性がある為、年貢の対象とはなりませんでした。ですから、田んぼの畦道に植えたり、利用価値のない川の土手などに植え、万が一の為に備えたのです。
 また、その球根の毒性を利用して、土葬の墓の死体をモグラ等に荒らされないように、墓地にも植えられました。田舎の墓地に彼岸花が咲く光景がありますが、これも昔の名残なのですね。
 このように、今咲き誇る曼珠沙華は、昔の人々の命を救った知恵と工夫が込められた花なのです。
 また、飢饉の時の大切な食糧だから、それ以外の時に取ってはいけないと子どもに教える為に、毒があるとか、死人がでるとか、火事になると言ったのでしょうか。
 実際、球根には毒がありますし、また、死人が出るほどの大変な飢饉の時の花だと言う意味があるのかも知れません。
 いずれにせよ、人々を救う花は、美しくありがたい花でありながら、奇異な目で見られていたのです。
 もっとも欧米では園芸用として栽培され、近年日本でも園芸用として栽培されるようになって来ました。品種改良によって、黄色の曼珠沙華も開発されています。

 20年近く前、新美南吉の「ごんぎつね」の舞台、愛知県知多半島、半田市の矢勝川へ行った時、土手には、2百万本の曼珠沙華が見事に咲き誇っていました。
 私はこの曼珠沙華が子どもの頃から大好きでした。
 小学3年生の時、山手の川崎君の家に遊びに行った帰り道、一面に咲く曼珠沙華を初めて見て、なんて綺麗なんだと思いました。
 少し持って帰りたいなと言うと、川崎君が好きなだけ取ればいいんだと言わんばかりに、私の代わりに両手で曼珠沙華を鷲掴みにして取ってくれました。
 夜空に開く打ち上げ花火のような花びらの曼珠沙華は、あたかも野に咲く花火のようにも見えるのです。
 その花火が一面に開く様子は、「ごんぎつね」の賑やかな秋祭りを連想させます。
 しかしまた、忌まわしい名前を付けられ呼ばれたが故に、悲しみ深い嘆きの花にも思えるのです。
 だからこそ私は、この花が余計に好きなのかも知れません。人が何と言っても、少なくとも私だけはお前が大好きだよと。

  朱の深き嘆きの色や曼珠沙華  幹雄

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