「未来への一歩」組立通信(承前)
廣 瀬 久 忠

【第3号】 感想は6の2
「ぼくは去年サボテンで落ちたのでペアのKさんだけは落としたくなかった。すごく力を入れて支えました。明日も頑張りたいです。」
 担任は語りかける。
「何でそこで声を出す!最後まで集中するんや!」と言いながらも心の中では「よくやったなぁ!すごいぞ!先生もうれしいで!」と子どもの素直な喜びを自らも喜び、さらに高みに導こうと語る。「気持ちを心の中でグッとかみしめながら演技することが求められます。表には出さないのです」
 技が危険を孕んでくる。そこで、 ★安全に技を成功させるために
 (1) つねに全身の集中力を高める。
 (2) 仲間と息を合わせる。
 (3) コツを意識する。
 (4) 無理だと思ったらあきらめる。(無理にあげない)
を指示された。子どもの気持ちに寄り添いながらも統制された全体美へのいざないだろう。

【第4号】 感想は5の1
「三人技を全部しました。私は乗せてもらうので二段タワーの時なるべく震えず、下でささえてくれる人も大変だと思うので堂々と胸を張って手を挙げられました。」
 担任の語りは、子どもの思いに寄り添う。「こわさに足が震えなからもしっかりと踏ん張り立とうとしたり、上に乗る人が崩れそうな時に土台の人がグッと体でバランスをとったりする姿からは『絶対完成させてやるぞ!』の気迫が伝わってきました。お互いを信頼して演技に取り組めたね。」
 体育館での指導中に子どもの緊張感に欠ける態度を叱らねばならない場面が減るのも頷ける。

【第5号】 感想は5の2
「4回目の組体の練習もけがなく、自分と友達を信じて胸を張ってできました。それは友達が諦めずにがんばってくれたからです。」
 担任は子どもの気持ちをさらに完成度を極める合い言葉に導く。「一緒に上手くなっていきたいんや!」「落としてたまるか!」と。

【第6号】 感想は5の3
「今日の組体は人間起こしが難しかったです。倒れる人が大ケガをしないように支えてがんばって起こしてよい演技をしたいです。集中力、緊張感を高めて練習です。」
 練習では縦に丸めたマットを人に見立てて直立の人を一気に起こしたり、直立に倒れる人をフワッとがっしり受け止めたりする「人間起こし」を本番さながら人がマットとすり替わる練習日である。緊張がなければ大ケガとつながる。 担任の語るのは一点に尽きる。
「落としてたまるか!」

【第7号】 感想は6の1
「人間落としで急遽リーダーになった。上の人のひざをしっかりつかみ何とか出来たというケースが多かったです。時々判断のミスがあってその時は下のY君が『だめやだめや』と言ってくれて安全に出来ました。焦っていたので次から冷静にしていきたいです。」
 担任はこの技が全員完成したときの大歓声で喜ぶ子どもの声を「押し殺すな」とは言わなかった。思わず大声を上げて喜びを分かち合っている。子どもの頑張りが指導の言葉をも鼓舞するものから穏やかなものに変わっていった。

【第8号】 感想は6の2
「ウェーブはそんなに危なくなかったので気が抜けてしまい上手くできませんでした。立ってやる方は集中するとうまくできました。」
 中だるみである。緊張感に欠ける子どもの気持ちのゆるみ。担任は語っている。「何のために組立体操をやっているのか?」と。

【第9号】 感想は5の1
「ウエーブをビデオで見ました。体を起こしていくところで手が飛び出しているととても格好悪いのでそれを意識して明日からやろうと思います。」
 担任は多くの子どもの頑張りを認め、細部を修正しようと「自分たちで『気づいて』『必死に』動けと」語っている。

【第10号】 感想は5の2
「今日は『落としてたまるか』を音楽付きでやりました。ウェーブで少し失敗したけど、みんなが『もう一回やろう!』と言う気持ちでやるとできました。それからは失敗せずにできました。」
 学習の場が運動場に変わる。自ずと合い言葉も変わる。「砂に負けるな!」気迫の言葉がけに子どもたちは笑顔で応えている。
「痛い」「よごれる」「がまんする」がつきまとう。これを承知の上で不満を振り切る。

【第11号】 感想は6の1
「外でやりました。外は砂や小石がすごく多くすごく痛いけどめあての『砂に負けるか』を思い出し痛みを心の中に封じ込めました。」
 担任は、フィナーレの大技に挑戦する日に「あきらめる勇気」を確認していた。完成させようとする子どもの気持ちに無理が重なり大ケガの起こる可能性を想定している。この日から担任に加えて私たちも指導の応援に加わる。子どもの落下を受け止めるために…。

【第12号】 感想は5の3
「最初から最後まで通してやりました。一つひとつの技をぴしっと決めて『気をつけ』もきれいにすることを意識します。常に体全部に集中力を高めて緊張感を持ってやります。」
 炎天下。担任は指示する。
「完成度」とは、
 (1) 伸びるところが伸びているか
 (2) 落とさないで一発でできるか
 (3) キレよくできるか
 (4) すばやく移動ができるか
 (5) 止まる時は止まっているか
 子どもはこの5つをつぶやきながら運動場に小走りでかけだしていく。

【第13号】 感想は6の2
「今日は倒立。ペアの人が支えてくれて初めてできました。グランドで成功してうれしかったです。」
 この学習感想を載せる担任の気持ちが痛いほど分かる。一人ひとりの努力を見届ける担任の笑顔がうれしい。この子の喜びは全体美と直結していくのである。
 「完成度」は子どもが何度もつぶやく「キレ・伸び・サッ」の合い言葉に昇華した。さらにたたみこむ。「よい演技ができた次の日が勝負どころですよ。」

【第14号】 感想は5の1
「今日は『技の完成度を高める』をしました。倒立はまだ自信がなく、苦手な技ですが今日はきれいに出来ました。不安もなくなりました。やっぱり仲間を信じ息をあわせるのが大切だと思いました。」
 担任はこの日の学習に語る。「笛をあなたたちにあわせる。失敗してもすぐあきらめるな。組み直せ。待つ。」 必ずみんなで成功させようとの鬼気迫る合い言葉。「必死に、ド真剣に」

【第15号】 感想は5の1
「フィナーレの『きぼう』で緊張感を持って自分の番が来た時ドキッとしたけど『きぼう』の技が決まってうれしかったです。」

【最終号】
 運動会前日の朝の会。5人の担任は「組体通信〜未来への一歩〜」を読み語る。最終の学習のめあては、すでに170の心の芯にしっかりと宿っていたのだろう。
「自分たちの演技に誇りをもつ」「どうだ!これがわたしの最高の演技だ!」

 そしてとうとう運動会本番。オープニング。笛を吹くS先生の目に涙が光っているのが涙でゆがむ。胸を張る堂々たる170の意志が輝いた。一人ひとりの大切な意志が一点をめざした。組立通信は子どもの瞳と四肢を凛と輝かせる子どもの思いを綴ったたいせつな取組の記録である。子どもたちに大きな拍手を贈り、担任団の導きに感謝した初夏の運動会である。
(湖南市立菩提寺小)