環境学習の学習感想 〜リン酸は毒じゃない〜
蜂 屋 正 雄

 滋賀県の小学校では5年生の社会科や総合的な学習の時間で「石けん運動」「富栄養化防止条例」といったことを学習する。富栄養化は滋賀県の環境課題の1つである。この学習でも、基本的な理解が抜けていると、誤った、また、安易な結論で終わってしまうことがある。

 今回は、富栄養化、特にリン酸に関する基本的な情報と陥りがちな結論を紹介しながら、学習感想を書くときに指導者が意識しておきたいことがらについて述べる。

 調べ学習を進めていくと、以下のような情報がよく見つかる。
・洗濯機が普及し、それに伴って洗濯洗剤も使われるようになった。
・下水道がそれほど普及していなかったため、洗濯の排水は近くの川へ流れていた。
・洗剤のリンが大量に流入したため、淡水赤潮が発生した。
・赤潮の原因であるウログレナ・アメリカーナは毒を出して自分だけが増えようとする。
・一方、合成洗剤がおむつかぶれの原因にもなることがわかり、合成洗剤追放運動が起き、洗剤のリンを追放したい県と協力して石けん運動を展開する。
・運動のおかげで、全国初の環境に配慮した条例である富栄養化防止条例が制定される。
 以上のような事実を前に、子どもたちは、
●リンは体に悪い。
●リンは毒のようなもの。
●粉石けんを使って環境を守りたい。
という感想を持つことが多い。(大人の研修でもそう考えている方は多かった)

 このような誤った認識は、学級で育てている植物(エンドウ豆やジャガイモなど)に肥料をやった経験とつなげると、簡単に修正できる。ホームセンターの肥料コーナーへ行くと、肥料には必ず「N:P:K=窒素:リン酸:カリウムが8:8:8」などの表示がしてある。ここに書かれている「リン酸」は、昔の合成洗剤に入っていたリン酸と同じもので、植物にとっての栄養分である。だから、リン酸は野菜にも入っており、私たちの体を構成する大切な栄養分である(毒ではない)。
 ただ、植物の仲間であるウログレナなどが、「日光・水・肥料」という条件がそろったびわ湖表層で大量発生し、水が低酸素化したり、水がくさくなったりすることは問題であり、「富栄養化」という言葉の意味もここから来ている。

 社会人研修では、「リン酸の検出実験」をしながら以上のような理解を促している。
 この実験で、ほとんど全ての食料にはリン酸が含まれていることがわかり、富栄養化でいうリン酸は毒ではないことがわかる。(また、現在発売されている洗剤は無リンである。)
 学習後は、「リン酸」「毒」「富栄養化」という3つのキーワードを使って感想を書いてもらうようにしている。社会人で行った研修では、指導者が意図した内容がどう伝わったかもよくわかった。学校の環境学習でも、指導者が「全員にこれだけは伝え、まとめさせよう、それ以外は自由に」というスタンスで書かせると良い。
 博物館での実習では、
○リン酸は毒のようなものだと思っていたけど、大切な栄養分だとわかった。
○今回の学習で「富栄養化」という言葉の意味がちゃんとわかった。
という感想をもらい、こちらの指導がある程度適切であったことがわかった。

 また、「日本という国は、世界中から様々な食材を取り寄せ、豊かな食文化を誇っている。それは言い換えると、世界中から栄養を集めているということでもある。人が増え、食べ物が豊かになるとそれだけ使い、捨てる栄養分も増えてくる。人が快適な生活を求めるほど、どこかにゆがみが出てきてしまう。そのあたりをどうやりくりするかが持続可能な社会を作ることにつながっていくのだろう。」と、理想的にはこの辺りにまで考察が進むとすばらしい環境学習になるだろう。
(滋賀県立琵琶湖博物館)