安全の「あ」
箕 浦 健 司

 フローティングスクール、2日間の約束、「3つの『あ』」。「安全」「あいさつ」「あとしまつ」。児童にとっては2日間の合い言葉であり、この約束を守ってこそ、充実した航海となる。事前打合せ会等で先生方に指導徹底を依頼するとともに、航海当日の乗船前にも、所員から直接児童に指導する。
 この中で、最も強調して伝えるのが、「安全」である。特に甲板での過ごし方について、具体的に説明する。

「『うみのこ』の中で一番危険な場所はどこだか分かりますか。そう、甲板です。外の風景を眺めたり、島の様子を展望したりすることができる気持ちのいい場所ですが、柵の1歩むこうは湖、琵琶湖です。落ちてしまったら取り返しのつかないことになります。ですから、甲板では、次の約束を絶対に守ってください。まず、絶対に走らない。また、柵から身を乗り出したり、柵の上に乗ったりするのもだめです。片足さえ、かけてはいけません。何よりも、みなさんの大切な命を守るためです。命よりも大切なものなどありません。ですから…」

 子どもたちは、航海を楽しみにしてきている。船に乗り込むと、いよいよ気分が高揚してくる。三階後部甲板に出ると、あまりの見晴らしのよさ、ほほをなでる風の気持ちよさに、つい走り出してしまう子もいる。児童への直接の指導は先生方の役目だが、命に関わることにもなれば、我々所員も放ってはおけない。
「走ってはいけません!」
と、厳しい口調で叱ることもある。

 フローティングスクールは、昨年8月に就航30周年を迎えた。記念式典や記念航海の準備を進める中で、就航当時に当事業に携わっておられた方々のお話を聞く機会があった。一番印象に残ったのは、「何か事故が起きないか、子どもが湖へ落ちないか、それが一番心配だった」ということである。幸い、過去30年の間に、船から落水した児童は一人もいない。就航当時から、安全指導の徹底が図られ続けているからである。だからこそ、30年間続けてこられた事業なのである。我々所員は、先輩方の懸命な努力によって築かれた基盤を、守り続けていかねばならない。

 ある航海の、児童の感想より。
「フローティングスクールの先生方、2日間、お世話になりありがとうございました。プランクトンのことや島のことなどを詳しく説明してくださったおかげで、琵琶湖のことがよく分かりました。また、厳しく叱ってくださったことも、ありがとうございました。」
 きっとこの児童は、注意を受けた後、反省し、その後の活動では約束を強く意識して過ごしたのだろう。普段なかなか体験できない船での生活から、多くを学んで下船していったのだと想像すると、本当にうれしく思う。
(びわ湖フローティングスクール)