読みを深めるということ
森  邦 博

 6年生の国語の授業を参観した。「海のいのち」(立松和平作)を読んで感想を持つ。その感想を友達と交流する活動を通して、読みを深めることが学習のめあてであった。
 考えを深めるということは、@考えをしぼる、A考えをまとめる、B考えを変えることでもあると確かめ、話し合い活動が始まった。

 よく似た感想を持っている子3人がグループになっての話し合いである。
 A児は、「海の命とは、自然の恵みと同じことだと思う。恵みとは、情けをかける温かい心。温かい心とは、思いやりの心。思いやりの心とは、相手のことを考えてするということなのだけど、それは温かい心になるし…」
 A児は海(自然)と人々の関係がテーマの物語だと直感して、意味をたどっていったのだがそれが一人歩きしてしまってどうまとめればいいのか、方向を見失っている様子であった。
 しかし、B児は、「ふーん、で、海の命って何のことになるの。相手のことを考えるということ?温かい心のことか?」と腑に落ちない様子。
 それを聞いていたC児が、「本当か、辞書で調べ直そう」と辞書を取り、3人でA児の調べたように意味をたどると、やっぱり同じようになる。意味的には間違いないようなのだけど、すっきりとしない様子であった。言葉の意味だけが上滑りしている。

「物語の中では恵みは何に当たるの」と尋ねてみた。すると、「千匹に一匹だといつまでも魚はとり続けられること」と3人同意。
「では、それは誰にとっての恵みになるの?」と次いだ。「漁師たちにとって」と返ってきた。 「漁師って具体的に誰のこと?」と更に問うと、「太一、与吉じいさ、お父たちのことか!」3人は納得したような顔になっている。
 A児の直感的感想は、物語に基づいて考えていくことでより確かな感想に変わっていったようである。

 このように、ぼんやりとしていた問題を3人で一緒に考え、読み取りを再確認することで、より確かな感想になっていった過程を見ることが出来たと思った。
 私は「これが考えを深めるということだね」と、思わず声をかけていたのだった。
 一方、A児が自分のまとまらない思いをそのままに出せたのも、その思いを受け取って一緒に悩む友達がいて、C児が辞書で調べ直してみようと提案できたのも、3人という小さなグループのよさにあると思った。さらに、そこに何でも話せる受容的雰囲気があったことが欠かせない。
 授業は学び合う友達の育成とともに深まり、確かな学びとなる。
(滋賀県教育会)