巻頭言
いのち、ことば、美しさを大切にする学校
林 哲 弘

 本校田殿小学校は、和歌山県有田川町にある児童数135名の学校です。秋11月の訪れとともに、周りの山々が一面黄色く色づき、活気あるみかんの収穫期を迎えます。

 2年前、私は本校に着任しました。初めて児童と顔を合わせた始業式の日、全校児童を代表して児童会役員の6年生が新しく着任した教職員を迎える挨拶をしてくれました。その歓迎の言葉が今も強く心に残っています。

 「田殿小学校は、きれいな自然に囲まれたとてもいい学校です。秋には、全校のたてわり登山で風車のあるコスモスパークへ行きます。そこからの眺めは最高です。ぼくたちは、この美しい自然の中で、『いのち、ことば、美しさを大切にする』ことを約束しています。みんなとても仲が良く、元気に過ごしています。先生方、これから私たちのことをよろしくお願いします。」

 翌日わかったことですが、この『いのち、ことば、美しさを大切にする』というのは、本校の教育目標の「めざす子ども像」だったのです。教育目標が教職員の題目のみに終わらず、子どもの日々のめあてになっていることにすばらしさを感じるとともに、その約束を守って「みんな仲良く、元気に過ごしている」子ども達と共に、新しい生活が始まることに大きな喜びと身の引き締まる思いがしたことを覚えています。

 この日から、私の学校経営方針の柱は「めざす子ども像」の実現となったのです。特に「美しさ」については、機会あるごとに子ども達に話してきました。日々の生活の中で子ども達の「美しさ」に出会ったとき、どんなに小さなことでも必ず全校児童の前で伝えるようにしました。
「いつもトイレのスリッパが揃っていて気持ちいいね。みんなの心も揃っているんだよ。」
「今日、朝の挨拶してくれた○○さんが、お辞儀をして挨拶してくれたよ。美しい姿だなぁと思いました。」
 そんな話を聞いているときの子どもの顔は、いつもいい顔をしています。

 私は、本校で6年間生活して巣立っていく子ども達が、この「めざす子ども像」が「めざす人間像」であり、「めざす自分像」であってくれるように、全職員で心を一つにして日々の教育活動を進めていきたいと考えています。
(和歌山県有田川町立田殿小学校長)