本棚  辞書の仕事
増井 元 著
岩波新書 2013.10 760円
辞書の仕事

 著者は岩波書店の元辞典編集者。30年以上も「広辞苑」「岩波国語事典」等の事典作りにかかわってきた中での苦労話や裏話、工夫など、言葉にまつわるエピソードが満載。

 「たほいや」という語がある。「遣小屋(やらいごや)に同じ。静岡県でいう」と説明してあるが、普通は生涯出会うことのない語であろう。この語が辞書を使って遊ぶゲームの名前になっているという。(詳しくはWEBで検索)「だんぼらぼ」「すむつかり」「けけれ」「ろず」など、そんな言葉があるのかと思う語が広辞苑に載っているというのも楽しい。

 見出し語が五十音順に配列されていることは知っている。しかし、拗音や撥音、外来語の長音の配列には複雑なルールがあるという。辞書によって配列が異なることもある。凡例には書いてあるが、辞書を使う際に凡例を読む人は少ない。私も読んだことがない。

 編集部には読者からの質問や、「こういう語が載っていないから載せるように」という要望も多いという。「振徳堂」という語が広辞苑第6版収録された時には、20年来要望されていた読者が既に逝去されていたという。

 言葉好き、辞書好きには興味津々の1冊である。
(常諾真教)