本棚  近代秀歌
永田和宏 著
岩波新書 2013.1 820円
近代秀歌

 主として明治、大正期に活躍した歌人の短歌100首を選んで、鑑賞、解説を付したものである。ベスト100ではなく、「あなたが日本人なら、せめてこれくらいの歌は知っておいて欲しい」という100首だという。歌は「恋・愛」「青春」「命と病い」「家族・友人」など10のテーマに分けて配列されている。
 著者は高校時代に国語の教師がガリ版刷りで紹介してくれた近代短歌を覚え、感化されて自分も作るようになったという。

 啄木の〈東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる〉の解説には「ある種の愛誦性を獲得するためには、このような過剰なまでに人々の心にベタに訴えかけるような俗性が必要なのかもしれない」「あまりにも芸術性、文学性が高くて一部の人々にしか理解されないといった作品は、多くの場合、時代を越えて生き残る確率が低い」という難しい問題があるという。

 歌は独立した作品として鑑賞するものであるが、「歌が詠まれた現場を知ることは、…歌の鑑賞の幅を広げることがある」という具体例を、赤彦の〈隣室に書をよむ子らの声きけば心に沁みて生きていたかりけり〉のところで述べている。解説の文章がたいへんわかりやすく、読みやすい。
(常諾真教)