分かりませんと言えること 
海 東 貴 利

「自分の考えを持つこと」「大きな声で発表できること」
 このようなことを4月の学級開きの時に話した。どんな子どもたちになってほしいか、どんな力をつけてほしいか、そのためにどんなことに力を注いでいくか、そのような担任の思いを話した。

 3年生国語「きつつきの商売(光村3上)」で、場面と登場人物を知るという授業での出来事。学習の手引きにも示されている国語でよく使う学習用語「物語」「登場人物」について指導した。物語とは、どんなものか。登場人物って何か。子どもたちは教科書に載っている説明の文章を音読し確かめた。「きつつきの商売」は教科書では、場面の初めに数字の番号が明記されているため、場面分けは一目瞭然。本文の登場人物も確かめた。「この物語の登場人物を言いましょう。」の教師の問いに、ほぼ全員の子が手を挙げた。クラスの子の大半が「そんなの簡単」という雰囲気だった。教師も、全員が手を挙げて当然と思うような発問をしてしまったと思ったが、手を挙げない数名の子たちが気になった。手をまっすぐ挙げることは、一生懸命考えている証拠。手を挙げないなんて、考えていないのかな。これくらい自分の考えを持ってほしいなあ。なんて、ふと考えてしまった。

 そこで、「じゃ、分からない人は手を挙げて。」と、指示を変えることにした。そして、手を挙げた子に「何か迷っていることでもありましたか。」と聞き返した。すると、その子は「登場人物は場面の中に出てくる人って言うのは分かるけど、かたつむりとかえるはかぎかっこの中しか出てこないから、…(登場人物ではない気がするのだけれど)迷っています。」と答えた。本文の登場人物はきつつきと野うさぎと野ねずみであることは明らかで、クラスのほとんどの子は、かたつむりやかえるのことなど全く気にしていなかったのかも知れない。

 しばらくすると、別の子が手を挙げた。「ぼくも、はじめはかたつむりやかえるも登場人物じゃないのかなって思ったけれど、会話の文の中だけだから、登場人物とは言えないと思いました。」と発言した。続いて手を挙げて発言した子も、「わたしも同じで、それは登場人物ではないと思います。かたつむりとかかえるは野ねずみが話した言葉だから、物語には登場してないと思います。」と発言した。

 「そうだったんだ」とつぶやく子もいた。つぶやいた子は、はじめの質問で自信ありげに手を挙げていた子だった。分からない人として手を挙げた子は、やっぱりというような表情で納得していた。この子が「はっきりした答えがまとまらなくて、『わからない』けれど、ここまで考えている」という自分の考えをしっかりとクラスのみんなに伝えたおかげで、単純明快と勝手に決めつけていたことをじっくり考えることができた。
(高島市立マキノ南小)