巻頭言
学びがひとり立ちする時
桑 野 光 枝

 すべては、学校朝会で児童に投げかけた校長先生の一言からはじまった。澄みきった優しい風わたる五月のことー。
 「学級目標は、決まりましたか。学校朝会で目標を伝えたいと思うクラスは、申し出てくださいね。」
 小さな子どもたちの背が心持ち高くなった。そもそも、四月から子どもと担任で学級目標をじっくり練って作り上げていこうという校風があったからこその反応であった。我がクラスも同様であった。教室に戻ると、
「桑野先生、ぼくらの学級を紹介しませんか。」
「学級目標を朝会で全校生に伝えてみたいのですが…。」
と、数人の子どもが丁寧な口調で相談にやってきた。子どもたちが大きく見えた瞬間である。

 そして、子どもたちは、四月に学んだ【スピーチの手順】を踏んで本番の朝をむかえた。
【スピーチの手順】
(1) 発表したい意志を校長先生に申し出る。
(2) 内容文を作って推敲。
(3) 清書・発表メモの作成。
(4) 発表の方法相談と練習。
結果は、お世辞にもうまいと言えるものではなかった。しかし、主体的に行動できる下支えとしての「国語力」を感じる出来事であった。日々の国語科教育の役割は大きい。また、学んだことが活きてはたらいていくからこそ楽しい。(第六学年担任時の出来事より)

 学習指導要領が改訂されて小学校は二年目をむかえる。読解とはこれまでの「読んで理解する」ことから「言葉を使う能力」までをとらえている。教科書の中だけでとどまる力ではなく、日々の生活や学習において言葉を使って考え、表現することが問われている。言葉が豊かになっていくと言語を媒介に人と話し合ったり、考えをたたかわせたりすることができる。だからこそ、判断力や表現力も磨かれ、それぞれの考えに深まりがでてくるのであろう。
 「言葉の力」を育てるためには、単元構想において目的や相手を設定する導入が、重要な通過点となる。「意欲」を生み出すからである。一見回りくどいようであるが、その実、国語力の定着には「急がば回れ」なのである。

 学級目標を「ぼくらの」と言える子どもを育てたいからである。
(尼崎市教育委員会 教育総合センター指導主事)