本棚  光の旅かげの旅
アン・ジョナス作 内海まお訳
評論社 1984.4 1365円
光の旅かげの旅

 〈明け方、家を出発した。〉と始まる。切り絵のようなモノクロの絵。森のそばに家がある。まだ店も開いていない町を通り抜け、農場、麦畑、山の中、海辺を通り、橋を渡って大きな街に着く。地下鉄に乗って、映画館に行き、高いビルの上から下を見おろす。最後のページには、〈太陽が沈んだ。本をさかさまにしてごらん!〉

 本をひっくり返すと、空は暗く、ビルに灯りのともっている絵になる。(読み聞かせをしていると、子どもがぐっと乗り出してくる)ページを繰っていくと、帰り道の様子が描かれる。映画館だった絵は、逆さまにするとレストランになる。山道はいなづまに、麦畑は雨というように、見る向きを変えると違う絵に見えるように描かれている。

 原題は、"Round Trip" 街へ行って帰ってくるだけの話で、事件が起こるわけでもない。地味な静かな絵本であるが、一度見ると心に残る1冊である。子どもたちにも紹介したい。

 作者アン・ジョナスは1932年生まれ。アメリカの人。グラフィック・デザインを仕事にしていたから生まれた絵本だろう。10数冊の作品があるが、翻訳されているのは、他に『あたらしいおふとん』『いろのダンス』の2冊のみである。
(常諾真教)