本棚  日本人のための日本語文法入門
原沢伊都夫 著
講談社現代新書 2012.9 740円
日本人のための日本語文法入門

 中学校や高校で学ぶ文法は「日本語文法」ではない。学校で学ぶ文法(国文法、学校文法)は、古典文法との継続性を重視したもので、言語学的には整合性を欠いているところがある。一方、日本語文法は外国人に日本語を説明するために、簡潔で合理的な文法体系であり、形式的な品詞分類や活用は除外されている。

 学校文法では、主語と述語という主述関係を文の基本的な構造とするが、日本語文法では主語を特別扱いしない。「主題ー解説」という構造であるととらえる。例えば、<そのゲーム機は父親が買ってくれた>という文では、「そのゲーム機」が主題であり、「父親が買ってくれた」はその解説である。主語以外も文の主題になる。

 <AがBになぐられた>というような直接受身文に対して、間接受身文というのがある。<雨に降られた><津波に家を流された>のような文である。英語などの欧米語にはない表現である。自分がどうする、相手にどうされるというような人間中心の発想ではなく、人間に関わる出来事も大きな自然の流れのなかで受け止め、受け入れる日本人の考え方が反映されているという。

 第1章 学校で教えられない「日本語文法」
 第2章 「主題と解説」という構造
 第3章 「自動詞」と「他動詞」の文化論
 第4章 日本人の心を表す「ボイス」
 第5章 動詞の表現を豊かにする「アスペクト」
 第6章 過去・現在・未来の意識「テンス」
 第7章 文を完結する「ムード」の役割
 第8章 より高度な文へ、「複文」

 しゃべるために日本語文法を学習する必要はないが、日本人の考え方が文法に反映されていることを知るのは興味深い。
(常諾真教)