子どものよいところ
弓 削 裕 之

 自身の教育実習の際、指導教官の先生が、子どものよいところをノートにメモするとよいと教えてくださった。その言葉のおかげで、見ようと思わなければ見えてこなかった子どもたちのよいところがたくさん見えてきたのを覚えている。自分と子どもたち一人ひとりが、線で結ばれていくような感覚だった。

 先日、今の学校に赴任して初めて受け持った教育実習生と偶然出会い、当時の話に花が咲いた。実習初日の反省会、子どもたちに関する心配事がたくさん話題にあがった。初日にもかかわらず、子どもたちのことをよく見てくれていたことに感謝した。しかしその時、「子どものよいところを」という指導教官の先生の言葉を思い出し、感謝の言葉を飲み込んだ。その代わりに出てきた言葉は、「明日からは、子どもたちのよいところだけを見つけてください」だった。はっとしたような実習生の表情と、わたしのその言葉を一斉にメモする姿。そして、次の日の反省会で、子どもたちのよいところを互いに語り合う彼女たちの素敵な笑顔が、脳裏に焼きついている。

 毎年、教育実習生と出会う機会をいただいているが、初日の反省会の最後には、必ず「子どもたちのよいところを見つけてください」と言うようにしている。2日目の反省会、生き生きとした実習生の表情を見る度、その言葉の持つ力に驚かされる。

・初日は不安と緊張でいっぱいで、クラス全体の子どもたちをぼんやりと、なんとなくまとまりでしか見ることができていませんでした。しかし、先生に「子どもたちのいいところを探してください」と言われ、1日数人ずつですが、一日かけてじっくりと見て接してあげると、こんなにもいいところがあるのかというくらい一人ひとりたくさんのいいところを見つけることができたし、子どもたちと話すうちにもっと知りたいと思うようになり、私のほうから積極的に接することができました。

◆「児童のよいところを1日ひとつでもいいから見つけるようにしてください」という話をしていただき、その日から毎日児童のよいところを探すよう心がけた。そうするようになって、以前よりもはるかに児童一人ひとりのことをしっかり見ることができるようになった。最初は意識的に見つけようとしていたのが、意識しなくても子どものよいところばかり見えてくるようになった。

◆2日目から、児童のいいところを見つけるとメモするということをしました。そうすると、気をつけていないと見つけることができなかったであろう児童のいいところがたくさん見てとれるようになり、どんどん児童のことが好きになるし、何より、明るい気持ちで二週間の実習に取り組むことができました。先生が初めに、いいところを探すように言ってくれていなかったら、どんどん悪いことばかり見つけていたのではないかと思うのです。(教育実習ノートより)

 恩師がわたしにくれた宝物の言葉。実習生を通して、たくさんの子どもたちに返ればと思う。
(京都女子大学附属小)