▼「ごめんなさい」ぼくは、足をふるわしながら小さな声でいいました。ーその作文はお詫びの言葉から始まった。新幹線の中でペットボトルのお茶の半分を床にこぼしたのである。駆けつけてきた車掌さんが席の下に頭を入れて拭いて下さっているのに小さい声でしか言えませんでした。

▼旅行の出来事を通して自分の成長を考えた少年の作文である。「ごめんなさい」と小さい声でしか言えなかった息子に、母親が「あなたの声では、伝わっていません。大きな声でお詫びをしなさい」と、気持ちを言葉で伝えることの大事さを諭された。少年は、車掌さんが再び来られた時、「ふいて下さってありがとうございます。こぼしてごめんなさい」と言った。作文では「勇気をふりしぼって言いました」と書いている。「とんでもないです」と車掌さんは「笑顔で言って下さった」と作文は結んでいる。

▼失敗から学ぶということが本当の生きる力を育てる。少年は、失敗を通して、お詫びの大切さを学ぶ。それを導いたのは母親である。車掌さんにお詫びの言葉を口にしたことで可とする。「気持ちが伝わっていません」と言える母親は少ない。

▼子どもを育てるには、出来事が起こったその場で時には厳しく指導をすることである。母親の厳しさに少年が気づくのはまだ先のことであるが。(吉永幸司)