全校朝礼にて
弓 削 裕 之

 月曜の1時間目は、体育館で全校朝礼をしている。クラスで2列になり、縦に並んでいる。初めは緊張していた1年生だが、慣れてくると自分なりの学習を始める。5月の連休までは、できるだけ声をかけずに、様子を見るようにしていた。きょろきょろしている子、脚を伸ばす子、下を向く子、おしゃべりをする子……様々である。

 連休明けの全校朝礼。子どもたちが興奮している。その時は、「きちんと座りましょう」という言葉を使った。子どもたちの「きちんと」は一つではなかった。これではいけないと思い、今度は「正しい三角座りをしましょう」と声をかけた。体育の時間に正しい三角座りのしかたを教えていたことを思い出したのだ。子どもたちは姿勢を正し、前を向いた。一瞬、みんながそろった。しかし、すぐに一部の子が自分なりの学習を始めた。手遊びをしたり、靴下を触ったり……。気づいてまた「前を見ましょう」などと声をかけると、その子たちは前を向いたのだが、次は別の子がし始めた。そちらに声をかけに行くと、また別の場所でもし始める。そのうち、最初に声をかけた子も、また自分の世界である。これではいつまでたってもその場しのぎで、全く意味のないことだと思った。

 それを機に、子どもに響く言葉はどんな言葉だろうと考えた。まず、「きちんと」という言葉より「体育座り」のほうが子どもに響いたことから、具体的でイメージがしやすい言葉でないといけないことはわかった。しかし、具体的な言葉だけでは、子どもたちの意識を持続させることができない。何か工夫が必要だと感じた。

 次の週の全校朝礼。子どもたちの様子を集中して見ていた。最初はぴりっとしていたが、すぐに集中力がなくなった。舞台前では、週番の6年生がスピーチをしている。わたしは、うつむいている一人の児童のもとへ行き、隣に座った。手立てがわからないなら、とにかく話そうと思った。
「今、前で誰がお話をしていますか。」
そう聞くと、その子は何も答えずに前を向いた。注意されたと思い、すぐに正したのだろう。そこで私は、もう一度尋ねた。
「今、前で誰がお話をしていますか。」「…お兄さんと、お姉さん。」「お兄さんとお姉さん、ですか。」「お兄さんと、お姉さんです。」「Aさんは、どちらを向くのですか。」「お兄さんと、お姉さんのほうです。」「そうですか。よくわかりました。」

 その後、じっとAさんのほうを見ていると、手足は動くものの、顔はずっと前を向いたままだった。子どもに言葉で接するよう指導しているにもかかわらず、たった一言で済まそうとしていた自分が恥ずかしくなった。子どもは、自分から発した言葉を意識するのかもしれない。とにかく、子どもと会話することが大切なのだとわかった。

 全校朝礼の度に、少人数ずつ話をするようにしている。根気がいることだが、一人ひとりの成長が手に取るようにわかるからうれしい。「きちんと座りましょう」の繰り返しでは、得られなかった感動である。
(京都女子大学附属小)