本棚  3・11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ
たくきよしみつ 著
岩波ジュニア新書 2012.4 820円
3・11後を生きるきみたちへ

 東日本大震災以降、原発に関する本がたくさん出版されているが、読んでこなかった。本書の著者は専門家でも評論家でもない。福島第1原発から30km圏内の川内村に暮らしていた著者の「見たものと考えたこと」という宣伝文句に惹かれて読んでみようと思った。
 マスメディアでは報道されなかったことが、当事者の視点で語られる。例えば、危険区域に指定されたため地震の被害者を救助できなかったり救援物資が全く届かなくなったこと、原発からの距離だけで避難指示が出されたため、海岸沿いの放射能汚染の低い地域からむしろ汚染度が高い内陸部へ避難するようになってしまったこと、一時帰宅の際に住民が着ていた「放射線防護服」はポリエチレン不織布で放射線を防ぐ効能はなく、付着した放射性物質を簡単に脱ぎ捨てるだけものでしかないことなどなど。

 「除染」をしても放射性物質が消えるわけではなく、場所を移動させるだけのことなので、余計に拡散することになる。重機を使って森を除染するのは容易だが、木を切り、表土を取り去ったら森の生態系は壊れてしまう。

 決して他人事ではなく、誰もが当事者になる可能性がある。自分で判断できる知識を持つことを著者は勧める。
(常諾真教)