本棚  曲り角の日本語
水谷静夫 著 BK1
岩波新書 2011.4 720円
曲り角の日本語

 著者は『岩波国語辞典』の初版(1963)からの編者。半世紀にわたって日本語の移り変わりを見つめてきた人である。
 著者が入院した際に看護師から言われた言葉「お熱を計ってもらってよかったでしょうか」や隣のベッドにいた高校生同士の会話が理解できないという体験が語られる。「移り行くのが言葉の常ーそれだけならよい。今の変わり方にあやうさを覚える」と言う。

 具体例を挙げながら著者は「曲がり角」の理由を次のように説明している。畳の上の生活を知らなければ、正座して行うあいさつの言葉が出なくて当然。生活様式の変化は表現態度にも影響する。複合助詞「とか」を濫発するのは、明確な提示がこわくて、おぼめかす言い方を選ぶから。敬語法が責任回避の婉曲表現に流れ、本来の待遇表現の実を失ってきた。表現態度の変化が言語構造まで変えつつある。

 また、戦後の国語施策や学校文法への批判もある。例えば「人妻」は「」ひとづま」なのに「稲妻」は「いなずま」という現代仮名遣いの不整合。「はは→ばば」なのに「ちち→じじ」も。
 「日本語未来図」と題した第4章には、今世紀終わり頃を想定した文章が掲げられている。内容はわかるが、言葉遣いは今とはずいぶん違う。(常諾真教)