巻頭言
A memorable person
柏原 みか子

 私は面接官の仕事をしているが、毎年必ず記憶に残る学生と出会える。惚れ惚れするほどバランスの良い学生、パワー漲る学生、既に社会貢献をしている学生、面接官に自分のバイト先の名刺を渡し営業をし始める学生など様々だ。
 そしてその年、そろそろ採用活動も終わりに近づいた夏の暑い日、彼女は現れた。

 集団面接からの申し送りには、「いたって普通。志望度も高くない。唯一の評価点は、学費と生活費の全てを不動産の賃貸斡旋営業で稼いでいる事」と書いてある。
 私の担当は、40分の個人面接。志望動機は自己PRするために大切なチャンスとなるはずなのだが、彼女はどうするのだろう。非常に楽しみだが、時間が余ったらどうするか…イカン。私まで緊張してきた。
 私の前に現れたのは確かに普通の女学生。なんともゆっくりペースで、今流行りの癒し系女子。ただ、私の際どい質問にも動じない。どんな状況になっても自分のチカラを出せる根拠のない自信がタップリある。何か引っかかる。このまま捨ててはいけない…気がする。私は「今の貴方のままでは、たとえこの面接が通過して最終面接に行っても内定は出ないよ。自己PRと志望度が低すぎる」とストレートに言ってみた。彼女はどう反応するだろうか。自信がブレるようなら不採用。殆どの学生はブレる。私が学生だったら涙眼だわ。いや、泣くな。「分かりました。修正して来ます。見てて下さい。」真っ向から私の挑戦を受ける彼女。ビンゴ!見つけた!
 一週間後の最終面接での評価はその年の最高得点。見事なまでの修正力。そしてチャンスの時を外さない鋭い嗅覚と集中力。脱帽。最終面接終了後、彼女は「楽しかったです!」と笑いながら帰っていったそうだ。何処まで根性あるのよ!

 彼女は「最初から完成されていない事は問題じゃない。相手が求めているものを見つけ、自分をメイキングし直せは良い。最終的に結果が伴えば問題無いでしょ」とまさにトップセールスマンに必要な発想を持ち合わせていた。
 マイペースで楽天家。でも強烈な攻めの人生。彼女のような人材はめったにお目にかかれないが、世の中に存在するのは確か。という事は、私達も気持ち一つでそんな人になれるって事なのかもしれない。

 そう言えば、よく似た人をもう一人知っているような気が…。誰だっけ…?あっ!!
(新卒採用アドバイザー)