▼海辺の町の崖の下に住む魔法使いが退屈しのぎに始めた「おもいで質屋」には、毎日のように子どもたちがやってきて想い出を質草にお金を借りる。20歳になると魔法使いに関する記憶はすべて消されてしまうが、その前にお金を返せば想い出は取り戻せる。『想い出あずかります』(吉野万理著)の書評の引用である。想い出は大人になっても手放したくないもの。それを預かってくれるという着想がおもしろい。一度は読みたい本の1冊に入れてはみたが。

▼いじめに遭っている女子高生はその辛い想い出を預け、小学生の男の子はゲーム欲しさに母との思い出を質入れする。0点のテストもおねしょで書いた世界地図も幼い日の手放したくない想い出である。出来事を、大切な想い出という発想が楽しい

▼国語科言語活動例を軸にして展開する教科書は感想・紹介・物語・随筆という言葉が目につく。手引きでは、話し合いましょうという活動への導きも多い。また、季節の言葉という特集もある。教材を教えるということから言葉に関わる子どもの育成と教師の言語力を問われている

▼「随筆・物語を書きましょう」という指示の前に一度は教師も体験をしているという奥の深さが必要であろう。「想い出あずかります」のような柔軟な発想が求められる時代になった。(吉永幸司)