本棚  漢字が日本語をほろぼす
田中克彦 著 BK1
角川SSC新書 2011.5 840円
漢字が日本語をほろぼす

 日本語は漢字があるから、豊かな表現ができてすばらしい、と思われている。本当にそうだろうか。聞くと聴く、見ると視るを区別する。どちらもオトは「きく」「みる」である。漢字の知識がなければ違いはわからない。熟語には同音異義語が多い。最近は漢字を知っていても読めない子どもの名前が増えている。東南アジアから来日して介護士をめざす人たちが、医学用語が難しくて資格が取れない。外国人が日本語を学ぶ際に、漢字が障壁になっている。にもかかわらず1850字だった当用漢字が常用漢字になって2136字になるなど、機械で書けるようになってから使う漢字がどんどん増えている。

 著者は「漢字をなくせ」と言っているわけではない。ことばはオトであり、文字がなくてもことばは成立する。教育が普及する以前は、漢字は学者や僧侶、官僚のものであり、漢字を知っていることが支配階級の条件であった。漢字による格差が存在したのである。

 多くの漢字を習得することは学習者の負担であり、入学や就職のテストで選別する手段になっている。漢字を減らせば、外国人も日本語を学びやすくなる。日本人にとっても、外国人にとっても学びやすい日本語にすることが、日本語の将来にとって必要なことなのである。ぜひ一読を。 (常諾真教)

 第1章 日本語という運命
 第2章 「日本語人」論
 第3章 漢字についての文明論的考察
 第4章 「脱亜入欧」から「脱漢入亜」へ
(常諾真教)