「春はあけぼの」に情景描写を学ぶ
弓 削 裕 之

「みんなに、あの時の夕日を見てもらいたかった。」
 臨海学校の作文にこう書いた5年生の児童がいた。この子に、自分が見た景色をありありと言葉で表現できる力があれば。そう思ったのがきっかけで、子どもたちの情景描写を記録し始めた。景色に関心はあるが、うまく言葉で表現できていない実態がそこにあった。毎日書いている三行日記にも、情景描写は見当たらなかった。「よい教材に出会わせなければ」と、国語教師としての責任感が芽生えた。

(1) 四季折々の風景の写真を見て、それぞれ言葉で説明する。
(2) 「春はあけぼの」の音読練習をし、原文の中から好きな言葉を見つける。
(3) 情景が思い浮かぶ場面に線を引き、情景描写の特徴について意見交流する。
(4) 自分が「をかし」(好きだな、きれいだな等)と思う風景を見つけ、短文で記録する。学んだ情景描写の特徴を活かし、短文に言葉を加えていく。
(5) 自分が書いた「をかしの風景」作文を発表し、友達の発表を聞いて“その人らしさ”を見つける。

 確実に情景描写の技術を身につけさせたいという思いがあり、「役に立つ国語」を目指して授業を組み立てた。情景描写の教科書として「春はあけぼの」を勉強するのだという共通の意識を持たせることで、子どもたちの中で「春はあけぼの」を勉強する必然性が生まれた。
 「色を使っている」「具体的に書いている」「比喩を使っている」・・・子どもたちは「春はあけぼの」からたくさんの情景描写の工夫を見つけた。その中で、「一つの景色をたくさんの言葉を使って表している」というテクニックを活用することを全体の目標とし、自分だけのとっておきの風景を言葉で描いた。
雲が動くのが好きだ。春に空を見ると、青くすんだ空を真っ白な雲がゆっくり、ゆったりと風に流されていくのはやさしくてねむたくなる。雲がいろいろに姿を変え、常に変化しているのもおもしろい。夏の夜の満月が好きだ。月のまわりがうすく黄金に光り、まわりの雲もやさしく照らされているのが特に好きだ。見ていると心が和むし、気持ちいい。雨上がりの空にかかる虹が好きだ。秋のまだくもっている空から太陽が顔を出し、きらめいている空の中を虹がかかっているのは最高。七色でなくても、うっすらとかかっているのはとても美しい。冬にしんしんとふる雪が好きだ。たくさんふるのもいいが、少しずつ舞うようにふるのはもっといい。屋根の上にふりつもっているのもきれいで、楽しくなる。
子どもたちは今も、三行日記に自分だけの情景を綴っている。学びは続いているのだ。
(京都女子大学附属小)