本棚  ことばと思考
今井むつみ 著 BK1
岩波新書 2010.10 800円
ことばと思考

 「異なる言語の話者は、世界を異なる仕方で見ているか」という問いを、実験データに基づいて認知心理学や脳科学の観点から説明している。というと何やら難しそうだが、例えば、「青」と「緑」を色名として区別しない言語の話者と、区別する言語の話者とでは色の認識に違いがあるのかどうかを調べるために、青と緑の中間色をいろいろ見せる。すると、区別する言語の話者は、その色を青と見るか、緑と見るかによって判断が違ってくる。つまり、モノの認識をことばのカテゴリーのほうに引っ張る、あるいは歪ませてしまうということがわかるという。

 また本書後半では、子どもの思考がことばを学ぶ中でどう発達するかについても述べられている。日本語では「道路をわたる」とはいうが「テニスコートをわたる」とは言わない。英語ではどちらもgo acrossを使う。ことばを知らない赤ちゃんの反応は同じだが、日本語を覚えかけた赤ちゃんは場所の違いに注意を向け、英語を覚えかけた赤ちゃんは注意を向けないという。自分の母語では重要でない場所の情報に注意を向けることをやめてしまうのである。

 外国語を学ぶと当たり前だと思っていたことが、そうではないことに気づく。言語が認識や思考に影響を及ぼしているのである。

序 章 ことばから見る世界…言語と思考
第1章 言語は世界を切り分ける…その多様性
第2章 言語が異なれば、認識も異なるか
第3章 言語の普遍性を探る
第4章 子どもの思考はどう発達するか…ことばを学ぶなかで
第5章 ことばは認識にどう影響するか
終 章 言語と思考…その関わり方の解明へ
(常諾真教)