本棚  一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病
片田珠美 著 BK1
光文社新書 2010.7 760円
一億総ガキ社会

 著者は精神科医。臨床の現場で打たれ弱い子どもや若者が増えているという。不登校やひきこもり、大人では出社拒否やうつという形で現れる。一方、クレーマーやモンスターペアレンツといった何でも他人のせいにして責め立てる大人も多くなった。

 相反するように見える「打たれ弱さ」も「他責的傾向」も根本は同じで、自己愛的イメージと現実の自分とのギャップを受け入れられないところから出ている。このギャップを乗り越えるための手段として覚醒剤や麻薬などへの「依存症」も増加しつつある。

 これら3つの問題(打たれ弱さ、他責的傾向、依存症)の根源にあるのは同じ病理で、「何でもできる」という幻想的な万能感を捨てきれないためである。大人になる過程では、いろいろなものを獲得する一方で、失敗や挫折を積み重ねながら、夢や自己愛的イメージを断念していかざるを得ない。それがなかなかできず、「対象喪失」をきちんと受け止められない人、それが「成熟拒否」である。これらは個人だけの問題ではなく、社会のありようとも深く関わる。

 本書では事例を挙げながら詳しく分析されている。また、最終章には、「子どもを子どものままにしないため」の処方箋が示される。(常諾真教)