巻頭言
パソコンと仕事
浅 原 孝 子

 私の仕事は『ライター』である。主に、人物や物、様々なスポットを取材して文章にまとめる。ライターの必需品はなんといっても、ペンとノート、そしてパソコン。ときにはカメラやICレコーダーも必要だ。

 パソコンやOA機器の普及によってここ二十年、ずいぶん仕事の仕方が違ってきた。ずっと以前は、四百字詰め原稿用紙に万年筆やシャープペンで文章を書き、それを依頼主である出版社、編集プロダクションへ直接届けていた。当時は下書きをしてから清書という流れ。清書時に書き損じをすると、また最初からやり直さなければならないので、清書時も気が抜けなかった。編集部には打ち合わせ時と納品時の二回、直接会って話をしていた。

 次にやってきたのがFAX時代。原稿を直接納品しなくても、FAXで送ることができるようになった。締切日ギリギリに、慌てて飛んでいかなくてもよくなったと喜んだものだった。

 その次にきたのがワープロ時代。原稿が直筆からワープロに変わった。文字を書くのはけっこう早かったが、ワープロを打つのはとても苦手で、原稿作成時にひと苦労。これではとても仕事にならないので、この頃、ブラインドタッチを覚えた。ワープロ原稿を相変わらずFAXで送っていた。

 劇的に変わったのが続いてやってきたパソコン時代。最初はメールの使い方もよくわからなかったが、そのうち普通にメールを使うようになり、原稿はFAXからメール添付で一瞬にうちに相手に届くようになった。時間の短縮化にともなって、直接会っての打ち合わせから、電話での打ち合わせ、さらに電話とメールでのやりとりへと、打ち合わせのスタイルも変化してきた。

 パソコンやソフト、周辺機器の発達によって、便利になったことは我々ライターとしても大変喜ばしい。しかし、ふと気付くと、仕事のやりとりをしているなかで何年も会っていない人がいる。

 人間、直接会って話し、表情や雰囲気を感じながらコミュニケーションするというのが本来の姿ではないだろうか。ライター本来の醍醐味もそこにある。ライターの回りもパソコンの浸透によって仕事の仕方が大きく変化した。しかし、時代が便利になった現代こそ、私は人間本来の“直接会う”ことを大切にしたいと思う。
(フリーライター)