A君のこと
白 髭 英 之

 A君は2学期の始めに転校してきた。口数の少ない、おとなしい子どもという印象を受けた。少しずつA君のことがわかってきた。算数の学習では、答えを出すだけではなく、その過程をみんなにわかりやすく説明することができる。しかし、学習後の感想など、自分の感情は書いたり話したりすることは苦手である。

 3学期の国語科「つぶやきを言葉に」(光村4下)の学習では、身近にあるものを題材にして詩作りに取り組んだ。A君は、題が見つからず、固まったまま動かない。「周りをきょろきょろしてごらん」と声をかける。机間指導をし、A君のもとに戻ると「ごみ箱」と書いてあった。A君の席の斜め後ろにあるものだ。「ごみ箱って何しているんかな」と声をかける。そのような助言ではいけないと思いつつ、どのようにすればよいのか思いつかなかった。

 再び机間指導をし、A君のもとに戻ると、何かが綴られていた。「がんばって書いたのだから」と思い、何も言わない。そこで、全体に向かって「自分の気持ちも表現するといいよ」と指示をする。A君にこのようなことを言ってもだめだ、抽象的すぎると考え、もう一度、全体に対して、「自分がそれになりきってみよう」と付け加えた。

A君が作った詩。
『ごみ箱』
  いつもじっとして、
  ごみを待っている。
  ごみがきたら、
  おいしそうに食べている。
  ごみなんか食べて、
  おなかをこわさないのかな。

 A君に「お〜、いいのができたね」と声をかける。他の子どもの指導にあたり、ばたばたしていたこともあったのだが、何で、もっと具体的によいところを伝えなかったのかと後悔した。

 近年、感情が乏しい、感情表現の仕方が十分でないことが原因で、人間関係をうまく構築できないことが指摘されている。A君もこれにあてはまる。感情をうまく表現できないのは、もちろんA君だけではなく、自分のクラスの大きな課題である。

 A君は読書が好きである。周りの友だちが外で遊んでいるのに、一人教室に残って本を読んでいる。2学期末に子どもたち一人一人と話をする機会があり、「一人で本を読んでいて寂しくないの?」と尋ねた。「本が好きだから…」という返事であった。読書は語彙を増やすだけではなく、感性を豊かにするものだと思う。読書の時間も、みんなと遊ぶ時間も大切にしてほしいと願う。
(彦根市立城南小)